「
死神の帰る場所」
本編
祝杯の肴は01
平日、開店直後のBarムーライト伝説の扉を開けると、中の女の子たちが一斉に振り向いて「いらっしゃいませ〜」と大合唱になった。
あら、一番乗りなのね。
いくら可愛くても一斉に振り向かれるとちょっと怖い。
野太い声も混じっているのが更に怖い。
この間、遊びに来てから2週間。
心配をかけた弦太郎に報告とお礼を言わないといけない。
照れくさいけど。
一番奥のテーブル席に通された。
お酒を作ってくれるレイちゃんや、お通しを持ってきてくれたあみちゃんたちに挨拶していると、ママの登場だ。
いやあ、流石ママ。
ダースベーダーかターミネーターのテーマが似合うよね。
しっしっとママに追っ払われて散っていった女の子たちが、カウンターのお客さんと話す声が聞こえる。
あれ、先客がいたのか。
ああ、弦太郎のでかい体で見えなかったのか。
「それで、どうだったのよ」
「どうって……」
声を潜めた弦太郎に腕で突付かれてまごついた。
何からどう話そうかと順番に思い出すうちに、ふと、体に刻みつけられた快感がフラッシュバックして、ぞくぞくと背筋が痺れてしまった。
初めて味わう苦痛にも似た圧倒的な快感。
治仁くんの、あの、顔。
体……。
おおう……。
おう……。
あれは……、いけないよ……。
「何よ」
「いや、いや、ごめん」
焼酎の水割りのグラスに口をつけてごまかすと、ライターからタバコに炎を移しながら冷たい横目で睨まれた。
「ニヤけちゃって、いやらしい」
「! う、そ!?」
それは!!
ヤバイ!!
とても昼間外を歩けないような顔な気がする。
慌てて手のひらで顔を隠すと、大げさな舌打ちが聞こえた。
「嘘よ。まったく…………はァ、……良かったわね。うまくいったんでしょ」
優しい声音に弦太郎を見ると、立派な眉毛を下げて笑っていた。
つられてへにょりと眉が下がる。
「ありがとう、弦太郎」
「あら? 私は何もしていないわよ」
「心配かけた」
「……ふふ。そんなの…………。私だって散々心配かけたもの」
頬を少し染めて、嬉しそうに笑う。
可愛い奴だなあ。
……女装してなきゃ抱き締めていたよ。