死神の帰る場所
本編
死神の帰る場所03

それにしても。
外まで迎えに来るなんて。

「よっぽどおなかが減ってたの?」

「…………?」

「?」

手を引かれて治仁くんの部屋に移動しながら聞くと、不思議そうな顔がちらりと振り向いた。
あれ、違うのかな?
ご飯欲しいんじゃないの?

「あ」

「……なに?」

ヤバイ。
すっかり忘れてた。

「ご飯の準備して来なかったよ。……今から何か買いに」

「いい」

「え?」

「減ってない」

「……そう?」

突然立ち止まった私の手をくいくいと引っ張るのが可愛い。
思わず綻ぶ口元を隠すこともせず、にこにこ笑いかけると乱暴に頭を撫でられた。

地味に痛い。
縮んだらどうするんだい。
なんて、ちょっと嬉しかったのを心の中で強がって見せる。

「藤本さんは」

「あ、私も、平気だよ」

今は胸がいっぱいで、おなかなんて減ってる隙間もないよ。

「メール、くれたの治仁くん?」

「……」

「ケータイのメアド知ってたんだ?」

「……」

前を歩く後頭部がこくこくと頷く。

そっか……。
そっか。

喜びが潮が満ちるように打ち寄せてくる。
治仁くんの態度はすっかり以前の通りで、少しも怒っているようには見えない。
軽蔑されたり、気持ち悪がられたり……そんな様子も見えない。

その事が、嬉しくてたまらなくて、本当に胸がいっぱいなんだ。


「お邪魔します」

導かれるまま部屋に入っても繋がれたままの手を不思議に思っていると、治仁くんはそのまま寝室の扉に手をかけた。

「……は! る、ひとっくん?」

「うん」

「寝るのかい?」

こくりと頷いた無表情を労しく思う。

きっと、
きっと、





相当寝不足なんだろうね。

辛いよね。





……でも。


「あのね、シャワーもらっても良いかな? 直ぐに、ね? 直ぐに戻ってくるから」

汗臭いんだ、私。
ただでさえお粗末な抱き枕なんだから、申し訳なくて。
直ぐに寝たいのは重々承知の上で。
頼むよ。


私を見下ろして、二度ゆっくりと瞬きをした治仁くんが、そっと私の手を解放してくれた。


何で笑ってるんだろう?

微かに口角が上がっているように見える。
気の、所為?

「ごめんね?」

横に首を振る治仁くんを残して、シャワールームに駆け込んだ。


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