死神の帰る場所
本編
死神の帰る場所02

久しぶりのマンションのエントランス。
当然のことながら、しっかりと閉じているオートロックの扉を前にして、次の行動が取れずにいる。

勢いでここまで来てしまったけれど。
失速。


このメールが治仁くんからだ、という確信は、私の願望でしかないんじゃないか、とね。
送信者が誰かわからないんだし。
これまでは会社のPCにメールが来ていたし。

見当違いだったら。
そう思ったら。


……恥ずかしい。

何を。
何を興奮していたんだろう。
イタい。
これは、かなりイタい。


血が上ってきた顔を両手で挟む。
うわあ、ほっぺが熱い。
いやな汗までかいているし。


この場からすぐにでも逃げ出したい。
それでも……。
このメールが治仁くんからだったらなんて淡い期待もあって、立ち去りがたいんだ。

衝突するその二つの思いで胸が痛くて、ちっとも体が動かない。
どうしよう。
辛い。
やばいなあ。
泣きそうだ。


「!」

目の前の自動ドアが突然開いた。

一瞬間を置いて、中から住人が出てきたのだと馬鹿な脳みそが理解した。

出入り口に立っていたら迷惑だろう。
不審者と思われるかもしれない。
おっと、確かに不審者の様なものだけど。
通報とかされたらかなわない。

反射的に一歩退いた足は、地面に付いた瞬間に、手を引かれて、また前に出ることになった。

「あ」

少しひんやりした大きな手が、私の手首を掴んでいる。
ぎゅっと、少し痛いくらいに強く掴むその手から、腕をたどって上げた視線が高い位置にある白い顔を捉えた。


「治……ひと……くん……」


口から零れた愛しい響きに、きゅっと胸が締め付けられる。

治仁くん。

治仁くんだ……。

久しぶりに会った彼は、もともとこけていた頬が更にこけて、目の周りのクマが一層色濃く、凶悪な面相だったけど。
それすら不思議と愛おしくて。


「……お帰り」


くしゃりと笑って言えば、微かに首をかしげた治仁くんが、薄い唇を開いた。


「ただいま」


はい。
ご挨拶、よくできました。


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