死神の帰る場所
本編
激おこプンプン兎04

激しい打撃音が空気を震わせている。
穏やかじゃない。

……どうしたらいいのかしら。

思案しながら扉から亀岡に視線を戻して、思わず息をのんだ。

表情は柔和なまま。
だけれども、全身に纏う空気が張り詰めている。

怖い。
本能が悲鳴を上げていた。

「……ママはここにいて」

ぽんと、亀岡に肩を叩かれて、弦太郎の体から力が抜けた。

固まっていた事にも気付かなかった。
あれが亀岡の本性かと思うと、小刻みに体が震える。

「ん…………げん、たろ……?」

「やだ、淳也! 起きちゃったの?」

微かに聞こえた従兄の声に駆け寄った。
寝ぼけ眼が弦太郎を見て微笑む。

「ん、ごめ、ねちゃった。……ん…………? れ? もうおしまい? あれ? お客さん?」

周囲を見回した従兄が首をかしげる。
寝癖を直してやりながら状況を説明すれば、従兄の視線が扉に向かう。
それを追って見れば、いつの間にか放たれた出入り口から女性の声が店内に響いた。

「亀岡、いたわよ! あの、変態オヤジ。」

廊下の電燈で逆光になった影から、怒りのオーラが立ち上っているように見える。
気の所為だろうか。

「…………だれ?」

「ああ、多分、この声、小枝子さん、だわね……。この上の料理屋の女将さんよ」

「! 治仁くん、の……」

思わず漏らしたのだろう呟きに胸が締め付けられた。
そう言えばそんな事を従兄に話した気がする。

「小枝子さん、声抑えて」

「湯ヶ島ですって! ほら、これご覧なさいよ! 『天城越えしました』って! ピースの写真!!」

「……ぁぁ……、社長……」

顔面にかざされたスマフォを見た亀岡が、額を抑えて低く唸る。

「この年で弟が出来ましたとか、嫌ですからね!?」

「ええ、わかってます」

「頼みましたわよ? 『お父さんに会えなくて寂しい?』ですって……? バッカじゃないの?」

「はい……」

出入り口の応酬に、弦太郎は従兄と顔を見合わせた。

組長が、見つかった?
いや、なんか凄い情報まで知ってしまった気がする。

小枝子さんは星野の娘──。

噂話に耳聡い方だと自負しているのに知らなかった。
同じビルの店舗だし、顔を見れば挨拶や世間話もする知り合いだ。
割と近い存在なのに、全く何も知らなかった。

多分、それこそ緘口令級の情報なのだろうと思う。

「なあ、弦太郎〜?」

くいくいっとスカートの裾を引っ張る従兄にキュンとさせられた。
ちょっと、ナニ可愛い事してるのよ。
襲うわよ。

「私、夢見てんのかなあ……」

へらりと笑う従兄に、チョップをかます。

「大丈夫、現実よ」

痛いと文句を言いながらも、従兄のその顔には弦太郎が大好きなはにかむような笑顔が浮かんでいた。


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