死神の帰る場所
本編
激おこプンプン兎02

ねえママ、と口を開いた亀岡の手が弦太郎の手首を捉えた。
顔は笑顔のままだし、そっと触れるような手付きなのに、背筋が凍る。
どうしたって振りほどけないんじゃないかと錯覚してしまうような雰囲気。
やっぱり只者ではない。

ドキドキと鼓動が速くなる。


「どこからの情報? うちの社長の入院理由」

「……」

「一応、緘口令敷いてんだよね」

「……あら、そうなの?」

うん、と頷く亀岡に首をかしげる。


「別に良いじゃない、──痔の手術くらい」


命に関わるような事由ならば、立場的に隠す必要があるのかもしれないけれど。
痔の手術を緘口令とは、大袈裟すぎる。

「……う〜ん。まあ、本人が恥ずかしいって言うからさ」

「ああ、……そうね、言いそうね、組長さん」

「うん。で? どこからの情報?」

ポリポリと頬をかきながら亀岡が首を傾げた。
とぼけた顔をしていているが、優しげな目もとの奥の瞳は鋭い。

「安心していいわよ。本人から聞いたんだから」

「え!? 知り合いだっけ?」

「そう、おシリあい。ちょっと前に病院の待合室でね」

目を瞬かせる亀岡に肩をすくめて見せる。

かかりつけの肛門科で、たまたま星野の組長と居合わせた時は本当に驚いた。

店に数回顔を見せた事がある組長は、弦太郎の顔に見覚えがあったのだろう。
……その時は化粧もウィッグもしていなかったのだけど。
見かけの割りに人懐こい組長が話しかけて来た。

何度か一緒になって、世間話をいくらか交わす中で、近々、手術になりそうだと話していたのを覚えてる。


お知り合いなんて言えないような、その程度のおシリあい。


「そんな事より、痔の手術なのよね? それなら一週間やそこらで退院でしょ? 何してるのよ?」

「あ〜。そう。ねえ……」

言いよどむ亀岡を睨みつけると、照れたように笑った。

「手術の前に、ついでだからって、スパ完備の宿泊ドックにかかって〜、手術で入院して……」

「へえ。そこまでで10日くらいよね? ドックに引っかかったの?」

「ううん、それは、年齢相応に健康だったみたい」

「そう、よかったわね。じゃあ、何なの?」

「……んーと。……入院中にナンパした看護婦さんと、どっかにいっちゃったんだよね……」

「は? …………はァ!?」

思わず、声が裏返った。


「な、……はあああ!!?」


どういう事よ、それ!!


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