死神の帰る場所
本編
激おこプンプン兎01

控室から取出してきた毛布を、すうすうと寝息を漏らす従兄にかける。
短い髪の毛を梳くと、むにむにと口が動いた。

「ふふ」

そのあどけない寝顔を見つめれば、母性の様なものが胸に広がる。
何て愛しいんだろう。

見飽きる事のないその顔の、しっかり閉じたままの瞼の縁に涙が光っていた。
オレンジ色の照明がきらきらと反射する。

アルコールによる生理的なものかもしれないが、弦太郎には従兄の本音がにじみ出ているように思えてならない。
滅多に弱音を吐かない従兄が、たった一杯の水割りで寝崩れてしまった。
寝入る寸前までニコニコ微笑んでいた従兄が痛々しくて、自分はちゃんと笑って話していられただろうか、と不安で仕方ない。


それもこれも。


カウンターに座って不躾な視線を寄こす男をキッと睨みつけた。

「おっと、ママ怖い。眉間のシワは取れなくなっちゃうよ」

「…………」

従兄の眠るテーブル席から無言で離れてカウンターの亀岡の隣に座る。

嘗てない程に腹が煮えくりかえっている。
今はもう閉店後だ。
接客なんて、してらんないわよ。

「どうなってんのよ」

「ん? 何が?」

亀岡の涼しい顔を殴りとばしてやりたい衝動を理性が抑える。
この食えない男が素直に殴らせてくれるはずもないけれど。

「あんたんとこの組長よ。2週間くらいじゃなかったの?」

「ああ、そうだね」

「もう3週間も経つじゃない!」

「あ、ほら、ママ、しー」

「!」

人差し指を弦太郎の口元に充てる亀岡の行動に一瞬カッとなったが、従兄が寝ている事を思い出して大きく息を吐き出した。

そうよ。
起しちゃうわ。

少し冷静になった頭をゆるゆると振る。

駄目ね。
直ぐに頭に血が登っちゃうんだから。


ありがとう、と微笑んで見せると亀岡が頷いた。
その顔は憎らしい程優しげだ。

でも、誤魔化されないわよ。

ぐっと詰め寄って至近距離からその瞳をのぞき込む。

「これじゃ賭けにならないわ」

「ああ、そう、かな?」

「あの手術は一週間もすれば退院できるはずよね」

「!」

「何があったのよ」

弦太郎の言葉に亀岡の眉が僅かに動く。
ふーん……と俄かに思案したらしい亀岡がペロリと唇を舐めた。


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