「
死神の帰る場所」
本編
眠れない夜02
あの夜、治仁くんにあんな醜態をさらしてしまってから、私は暫くトイレに籠っていた。
酒と欲望に熱く震える体が収まるまで、じっと蹲って。
体は熱いのに、心と頭は酷く寒くて、とても辛い時間だった。
なんて事をしてしまったんだろう。
後悔が痛いほどに胸を締め付ける。
ちょっと前に、「解放して欲しい」なんて思っていたのに何て様だろう。
実際に関わりが断れるんじゃないかと自覚した途端、動揺でパニック寸前だった。
きっと、きっと、気分を害した。
気持ち悪かっただろう。
男の興奮した股間を押しつけられるなんて。
彼はどこへ行ってしまったんだろう。
帰ってこないのだろうか。
帰ってこなければ、謝る事もできない。
……どう謝って言い繕えば良いのかも分からないけれど。
場所をリビングに移してひたすら家主を待つも、結局、朝まで戻らなかった。
ぼんやりと自宅のアパートに帰る。
一睡も出来なかった体は気絶するように意識を失い、起きたのは日が傾く頃。
治仁くんの家に行かなくては、とのろのろ起き上がる途中で動きが止まる。
金曜日だ。
抱き枕はお休み。
へなへなと、再び布団に沈み込んで、溜息をつく。
胸に抱える荷物が先送りになった事に、焦燥と安堵がぐちゃぐちゃと混ざり合って化学反応でも起してるんじゃないか?
とんでもなく息苦しい。
それでも、たっぷりと睡眠をとったから、頭は少し落ち着いていた。
それで思い出した。
そうだよ、キス。
キスをしかけて来たのは治仁くんだったじゃないか。
そうだよ!
ふっと心が軽くなる。
自分の失態ばかりに気を取られて酷く落ち込んでいたけれど。
酔っ払いの悪乗りを始めたのは治仁くんじゃないか。
キスなんて。
それも、あんな熱烈な。
あんなキスをするから、私だった反応してしまったんだから。
……私もノリノリに応えてはいたけれど。
キス。
治仁くんと、キスしちゃったんだよね。
私。
……気持ち、良かったなあ……。
「…………っ」
そろりと下半身に手を伸ばす。
そこは、待ちかまえていたかのようにじんわりと熱を持っていた。