死神の帰る場所
本編
兎と亀の賭け02

グラスを勢いよくカウンターに叩きつけるとゴツッと大きな音が鳴った。
キズになったかしらと少し心配しながらも、体をぐっと乗り出す。

「亀ちゃん、賭けするわよ」

くよくよ落ち込んでいるのは性に合わない。

「ん?」

「賭け。好きでしょ? 賭け事」

「まあ、ね」

「ボクちゃんが、うちの大事な従兄弟を泣かせないか」

どう? と首を傾ければ、デフォルトの微笑むように細められた目の奥が光った。

「ママはどちらに賭けるの?」

「あら。勿論泣かされる方でしょ」

「へえ?」

「泣いて帰ってきたら、思いっきりでろんでろんに甘やかせてやるの」

鼻息荒くそう言えば、亀岡が苦笑した。
失礼しちゃう。

「それじゃ僕は泣かせない方? 泣くとか、曖昧だな」

「ハッピーエンドかそうじゃないか」

「ハッピー、ね」

含みのある言い方に、今度はこちらが笑ってしまう。
私にとって従兄が考えの中心である様に、亀岡にも事情がある。
ハッピーだって立場が変わればアンハッピーだろう。

正直、私にとってもハッピーかどうか疑わしい。

「分かったわよ。付き合うか付き合わないか。それでいい?」

不機嫌にそう言えば亀岡が頷いた。

ああ、嫌だ。
口にしたくなかったのに。

「私は付き合わない方に賭ける。二人が付き合う事になったら、私が負けたら」

きっとショックで寝込んでしまう。
なんてね。

それでも従兄が幸せならば、と、思ってしまうんだろうけど。

「亀ちゃん、慰めてくれるんでしょ?」

「へえ……」

「負けた方が、勝った方に祝杯を奢るの。どう?」

「わかった」

満足げな亀岡が酒を嚥下した。
喉仏が大きく上下するのを眺めながら、深いため息を吐く。

「亀ちゃんの好きなお酒用意しておくわ」

負けても良いと思っている。
勿論、勝っても良いけれど。

彼が、従兄が、幸せならば。
それで良い。

私が幸せにしたいと思ったこともある。
でも、きっとそれはできない。
ならば、傍にいて、それを見守ろうと決心したのだ。
今更。
今更。


そう自分に言い聞かせるのも楽じゃないわ。


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