死神の帰る場所
本編
猪口の表面張力04

ちゅっちゅ、と啄ばむ様に触れる柔らかい唇。
自然とそれに応えて唇が動く。

少しくすぐったくて、心地良い刺激。

お互いの唇を唇で挟みこんでは、位置をずらしてまた挟む。
柔らかい感触が気持ち良い。


なにが。
起きてるんだろう。


夢か?


キスしている。
その相手は治仁くんだ。


やっぱり夢か?


「……ン、ふ、っ」

濡れた舌先に、ちろりと唇を舐められて、ひくりと体が揺れた。
くすぐったさと、その奥に灯る小さな欲望が鼓動を早くする。

高まる興奮に、弾む息。

「ン……」

ぺろり、ぺろりと唇が濡らされていく。
大きな手に首から頬を擽られて、心地よさにとろりと目を細めた。

巧みな舌先に応えて、私も自らの舌を蠢かす。
誘い込むように唇の間から舌を覗かせれば、ぐっと口付けが深まった。

唇を押し付けあって、舌と舌とを絡める。
自らの荒い息に混じるくちゅくちゅという水音が、思考を奪っていく。


気持ち良い。


流石、キスがうまいなあ、と頭の片隅で冷静な自分が皮肉を言っていた。


熱い粘膜の味は卑猥で、中毒患者のように夢中になって貪る。
ジンと腰が甘く痺れて、体の中心が熱を持つ。
湧き出る快感に飽き足らず、強請る様に舌を吸えば、いっそう激しく口内を犯された。

ぎゅっと広い胸に抱き寄せられて、自らも体を擦り付ける。
背中をまさぐる手のひらに応えるように、私も治仁くんの体に手を這わせた。


愛しい人を全身で味わう多幸感に、脳みそが痺れるようだ。

気持ちよくて。
幸せで。


夢中で足を絡めると、自らの高まった欲望が、治仁くんに当たった。
その刺激に、ギクリと体が硬くなる。


「……!!」


パンと頬を叩かれた様に、一気に頭が回転しだした。
と、同時に、さあっと血の気が引く。



……何を、した?

私は何をしていた?



ぐいっと腕を突っ張って、愛しい腕の中から脱出する。
ベッドを降りた私の腕を大きな手が掴んだ。

その勢いに思わず息を呑むと、その手がゆっくりと剥がれていく。

「あの、……トイレ、に」

治仁くんの顔を見ることができず、うつむいたままぼそぼそと呟く。
声をかけられる前に、と、足早に寝室から逃げ出した。

トイレの個室に鍵をかけて、その扉に凭れると、ほっと息を吐き出す。
膝から力が抜けて、ずるずると座り込んでしまった。


何が。
何が起こったんだ。


頭を抱え込んだ私の耳に、微かに玄関のドアが閉まる音が聞こえた。


……何が。


ぽたりと一滴、心から溢れ出たものが目から零れ落ちた。


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