死神の帰る場所
本編
猪口の表面張力01

夕飯、入浴、ベッドメイク。
そこから抱き枕までの間に、たまに晩酌が入るようになった。
決まって、私の休日の前日に。
予告なしに一升瓶が用意される。

年中無休の店舗だから、決まった曜日に休みが取れる訳じゃない。

会社に問い合わせたのだろうか。
……まさか本人が電話して聞いたわけでもないだろうけど、ちょっと笑ってしまう。


休日前だし、お酒は嫌いではないし。
断る理由もなく、誘われるまま相伴に預かる。

困ったことに休日前の開放感で、飲みすぎてしまうこともしばしば。
初めてお酒をいただいた時のように、記憶をなくす程は飲まないように気をつけているけれど。
結構深酒をしてしまう。

だってさ、用意される酒が美味いんだもん。

自分じゃとても手の届かないような高価な物だったり。
作り手の心意気が伝わるなんとも味わい深い物だったり。

趣味がいい。


飲みにケーションなんて言ったら若い子は鼻で笑うだろうけど。
おじさんにはとっても有効な手段なんだよね。

いつの間にか、随分と気安くなってしまった。


酔っ払っている時は勿論、素面の時も会話が増えた。

とはいえ、私が勝手に話しかけているだけだけど。
治仁くんは相変わらず無口だ。
それでもちゃんと受け答えてくれるし、嫌がる風でもない。

おじさん、調子に乗ってるのは自覚してるんだけど。

「治仁くんは、高校、月見台だっけね」

「…………」

「あそこね、私の頃はサッカーがとても強かったんだよねー」

「そう」

「今はどうなのかな?」

「…………」

首を微かにかしげた白い顔に、ふと疑問がわく。

「部活とかしてなかった?」

運動部……は超絶似合わないよな、と思いながら尋ねれば首を横に振る。
そうか、部活してないのか。

治仁くんの青春時代を考えて、少し切なくなる。
きっと、普通の学生とは違ったんだろう。

「藤本さんは」

「あ、私?」

無表情がこくりと頷く。

「中学校から、高校までバレー一筋。身長伸びなかったから、最後までベンチだったけどね」

「そう」

「うん、治仁くんの身長がうらやましい」

すっと視線が落とされて、あ、困らせたかな、と思う。

最近、何だか表情が読めるようになって来た気がするんだよね。

可愛いなあ。
可愛くて、おじさん、困っちゃうよ。


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