死神の帰る場所
本編
非日常と日常02

まろい水のように喉を通っていく美酒に、加減を忘れた。


日本酒。
好きなんですよ。

高いし。
そこまで酒が強くないから、後に残るのが怖くって。

普段はあまり飲めないけど。
実は、かなり好き。

居酒屋や料理屋で、美味しい料理と極上の酒を味わうのが、たまの贅沢。


名前だけは知っている、値段が聞けないくらい高い筈のその一升瓶を傾けられて。
はじめは遠慮していたのだけれど。

一口舐めて。

……いやもう、美味しくて。

もう一口、こくり。

こくり、と。

いつの間にか杯を重ねてしまい。
たくさん、頂いちゃった。


こんな風に、治仁くんが晩酌するのは初めてで。
それにお付き合いするなんて。
緊張してしまって。


今、心臓が痛いくらい鳴っている。
ほうっとため息をつけば、体内から芳醇な香りが鼻を抜けて、心地良い。

やあ、酩酊状態だね。
意味もなくにまにまと、顔がにやける。

「治仁くん」

ベッドの上、治仁くんの腕の中。
ごそごそと体の向きを変えて、向かい合った。
こんなことをするのも初めてだけれど。
お酒で気分が大きくなっていて何の気負いも感じない。

覗き込んだ瞳が真っ黒で、本当に綺麗だ。
一緒に飲んでいたのにも関わらず、変化のないその白い顔に呆れてしまう。

「今日はご馳走さま」

「……うん」

「すっごく、おいしかったれす」

「そう」

へらへらと笑うと、治仁くんが背中をポンポンと叩いてくれた。
たったそれだけのことに嬉しくなってしまう。

「たくさん飲んでしまいました」

「うん、酔ってる」

「はい。気持ちいれす」

そう、と子供をあやすように背中を叩かれて、瞼がとろりと下りてくる。

「誕生日」

「ん?」

「藤本さん」

「…………ぁぁ……」

そうだ。
日付が明けたのなら、私の誕生日だ。

お祝い、してくれたのかな?


ああ、嬉しい。

これは、かなり嬉しい。


「あいがとう……」


ぽやんと見上げると、少しだけ目を細めた治仁くんと視線が噛み合う。


ちゅっ。


少し伸び上がって、その薄い唇に触れるだけのキスを落とす。
居心地のよい胸に擦り寄って、満足感にため息をつくと、私は、そのまま眠りに落ちていった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -