死神の帰る場所
本編
非日常と日常01

3月の末の週末は、忙しい。
とても。
春は家具屋の繁忙期だ。

治仁くんの家で夕食を片付けてから、ちょっと休もうと座ったら、どっと疲れが沸いてきた。
ふんわりと沈むソファが心地よい。

今日のメニューは「うどん」。
昨日居酒屋でカロリーを摂りすぎたし、手の込んだものを作る気力もなかったし、ちょうど良かった。


「ふろ」

ふわりと空気が揺れて、ソープの香りが漂う。
見上げると、髪がぬれたままの治仁くんが手を差し出してくれていた。

「うん」

ぼんやりとその手をとる。

かったるいけど、やっぱり入らないとな。
汗臭いだろうし、出汁臭いだろうし。
シーツに匂いが移るのは、いただけない。

アパートに帰っていたら、何もせずに布団にダイブしていただろうけれど。

「ありがとうございます。治仁くんも、髪の毛、ちゃんと乾かしてくださいね」

フラフラと覚束ない足取りでバスルームに向かう。

夕食を作るようになってからは、お風呂を借りることにした。
調理すれば、どうしても体に匂いがついてしまう。
そんな抱き枕じゃ安眠妨害してしまうんじゃないかと思ったから。
結果、自宅に戻らずにこのマンションに来るようになって、時間に余裕ができた。


頭のてっぺんから熱いシャワーを被ると、じんわりと体が温まってくる。

気持ちがいい。
首を傾けるとぽきぽきと音がする。


仕事は忙しかったが、それよりも、昨夜の岡崎の言葉に振り回された気がする。

以前に比べてどこか余所余所しい上司や、同僚の態度がいちいち気になってしまった。
気にしていないつもりでも、ちょっとしたことが積み重なって神経が磨耗していく。

直属の上司と部下は前と変わらない様子で、それだけが本当にありがたいと再認識。


よし、リセット完了。

もこもこの質の良いタオルで、短い髪の毛を強く拭きながら大きく息を炊き出す。
気にしても仕方ない。
仕事は仕事だ。


すっきりした頭でリビングに戻ると、治仁くんがラグに腰を下ろしていた。
長身をゆっとりとソファーに凭れかけさせて、私を見上げる。

その様子がなんとも色っぽくて、ちょっとギクリとしてしまったよ。


「藤本さん」

治仁くんの長い指が、綺麗な青いガラスでできた小さな猪口に添えられた。
それを私に向かって持ち上げる。

優雅な仕種に、思わず、ほうっとため息が漏れた。
誘われるまま、それに手を伸ばす。

ローテーブルには大吟醸の文字が眩しい一升瓶と、その肴が何品か用意されていた。


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