死神の帰る場所
本編
日常と非日常02

ちょっとぼんやりしていたら、微妙な顔をしながら、岡崎がよく分からない励ましをしてきた。
その様子にだんだん笑いがこみ上げてくる。

「てかさ、多分、岡崎、ちょっと勘違いしてない?」

「…………勘違いって……」

「声裏返ってるし。私、別に、星野さんにヤられてるとか、ないからね?」

「なっ……おま……」

一気に真っ赤になった岡崎に、ああ、やっぱり、と思う。
他にもこういう勘違いをしている人がいるんだろう。

うーん、まいったなあ。

「あっはは! やっぱり」

「いや、……なあ……?」

「星野さんは女の人が好きだよ。モテるし、こんなおっさんお呼びじゃないって」

「う……あー、あー、悪い」

「イヤイヤ、うん。よし、ここの奢りで手を打とうじゃないか、課長さん」

鷹揚に笑って見せると、岡崎がグラスを一気に空けて、しょうがねえな、と照れくさそうに笑った。
仕方ないよ、岡崎。
私の心を抉ったお前が悪い。
知らないとはいえ、残酷だ。

「んだよな〜、じゃあ、おまえ、毎日何しに行ってんだよ」

「何って……」

ぶつぶつ言う岡崎に言いよどむ。

「ご飯作って、ベッドメイクして、……添い寝……?」

「……ハ?」

岡崎に嘘をついても仕方ないし、私の気持ちはさておき、疚しい事はない筈。
なのだけど、どうも言葉にすると、こう、普通じゃない感がひしひしとしてきて不安になる。

なんとなく“抱き枕”という言葉は避けたけど、“添い寝”も十分おかしいか?

「だから、添い寝。エロい意味はなく、添い寝」

「……なんだそりゃ」

「まあ、な」

やっぱ変かな。
大分、自分の感覚がおかしくなってる気がする。

「私もさ、人と一緒に寝ると却って安眠を妨害するって説明したんだけどね」

同じ布団、同じ部屋。
人の気配で不眠になる人だっているのだと。
インターネットから学説なんかもひっぱて来て、震える声で申し出た。
それでも解放されなかったんだから、仕方ない。

「そういう問題じゃ……。ってか子供じゃあるまいし……。……んん? あー? 今日は行かないんだよな?」

「あはは、うん。金土は、あちらさんはお休み」

「ふうん?」

「お勤めが忙しいらしいよ」

「何それ、しのぎ? とか? コワ」

「あはは、そう、怖いよなー」

なんて、笑い合いながら、ああ、治仁くんの住んでる世界は、私の住む世界と違うんだなと再確認した土曜日。


一日明ければ、また非日常が迫ってくる。
そりゃもう、色んな意味で抗いがたく。


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