死神の帰る場所
本編
日常と非日常01

仕事終わり、居酒屋、生ビール。
騒がしい店内で、ぐっとジョッキを傾ければ、思わず長いため息が漏れた。

「うまーい」

「あはは! お疲れ」

「やー、岡崎もお疲れ」

同期の出世頭の背中をバン、と叩く。
いてえよ、と文句を言いながらも、にこにこと笑う顔に嬉しくなった。

「居酒屋久しぶりだわ〜」

お通しの菜の花のお浸しが旨い。
いいね、たまにはこういうのも、いい。

岡崎とこうして飲みに来るのは久しぶりだ。
ヤツが結婚して、子供ができて、……まあ、仕方ない。
いつまでもつるんではいられないよな。

「んで? 統括部の課長さんが私に何の話?」

生から焼酎の水割りに移って、2杯目をちびちびやりながらほっけをつつく。
骨の上についた薄い身を剥がして口に入れながら、岡崎を肘でつついた。

「用もないのにうちの店舗来て。後輩たちがビビるからやめてよ」

「用って……巡回は巡回で俺の仕事だけどな」

「まあーた、そんな事言って」

くすくすと笑いが漏れる。
こうして居酒屋に誘われて嬉しいけれど、会社じゃできない話があるのはわかっていた。

「おまえさ、ヤバいかもよ」

「あー? リストラ?」

「そこまでじゃない。けど、結構睨まれてる」

「そっかあ」

へらへらと笑っていたら、岡崎にアホってため息をつかれた。

ちょっと疲れた顔をする岡崎の顔は、10年前と比べてしわが増えた。
真っ黒な髪の毛は染めているのだろう、生え際に少し白いものが見える。
私も同じように、少しずつ老けて来ている。

本部にも事情を知っている人と、知らない人がいるらしいけれど、どちらにしても悪目立ちしている、というのが岡崎の忠告。

「お前が悪いわけじゃないのにな」

「まー、そうねえ」

私から説明したことはないけれど、岡崎は事情を知っている人、らしい。
思い切り同情されて、少し居心地が悪くなった。

そりゃ、最初は死ぬほど苦痛だったけどね、今はちょっと違うって言うか。

会社への勤務時間が短くなったのに対して仕事内容は変わらないから、体はきついけど、まあ、何とかなってるし。
治仁くんの元へ行くのは、苦痛どころか、はい喜んで、な心境だもの。


でも、そうか。

社内では、私の扱いを持て余しているってことか。
うん、ちょっと現実に戻った感じ。
浮かれてばかりもいられないね。


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