死神の帰る場所
本編
あばたもえくぼ02

だからね、あんまり可愛いこと、しないで欲しいんだ。
その度に緩む口元を隠すのが大変なんだから。

手のひらで顔を覆うのが癖になってしまったよ。



夕食を作るようになって、治仁くんが出迎えてくれることが多くなった。

特に腹が空いている時は玄関口まで来てくれる。
多分治仁くんは無意識。

室内犬みたいだよね。
尻尾を振って出迎えてくれるヤツ。

あ、もちろん幻想なのは自覚してるんだけどさ。
廊下に立つ治仁くんは相変わらずの無表情だし。

それでも、扉を開けた所に愛しい人がいたら。
私じゃなくたって嬉しいもんだろう。


夕食を食べない日も12時迄には帰宅することが多くなっている。
「少し遅くなる」旨の連絡を受けることもある。
なんだか、新婚みたいじゃないか?

なんて。
思ってしまったりね。
いやーまいった。



「寝る」

リビングで待機している私の傍らに治仁くんが呼びに来る。
返事をすれば、大きな手が手首を掴んで、寝室へ導く。

始めの頃、足が竦んでしまった名残。
今はもうそんな事されなくたって歩けるんだけど、ね。

その状態のまま、ベッドに二人で横たわる。

私が壁側。

壁に向かう私の背中に彼の体が密着する。


この瞬間が一番緊張する。

なんだか恥ずかしくて、生娘かってなくらい、緊張する。
何気ないふりってのは一番難しいんだよ。


体に腕や足が絡み付いてしまえば、暖かさと共にじわじわと心地よさが満ちてきて、緊張は解れていく。
そして、あっと言う間に眠たくなってしまって。

ポジションを探して擦り付けられる治仁くんの体に、うっとりしながら眠りに落ちる。
治仁くんより先に。


朝も私が先に起きる。
抱きしめられたままだから、治仁くんを起こさないようじっとしているこの時間が一番の幸せ。

運が良ければ向かい合わせになっていたりして。
寝顔、見られるんだよね。

とても綺麗な寝顔。
じっと見詰めれば、時間を忘れてしまう。


久し振りに味わう甘い幸福感に胸が満たされて、まだまだ私も枯れるには早いな、と再認識してるんだ。
そう、枯れていないからね、時々焦ることもあるだけど……。

私は、欲情する。

治仁くんに、欲情するんだよ。


ね。
勘違いじゃない。

そう言う意味で、彼を愛しく思ってるんだ。


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