死神の帰る場所
本編
検証 吊り橋効果04

ある日突然、従兄弟が「女になりたい」と言ってきた。
即効で「無理だろ」と答えてしまったけど。

ふわふわと酔っ払った脳の中、精悍な顔に幼さが残る従兄弟が涙ぐんでいる。

男に愛されたいと告白してきた従兄弟に驚いて。
その次に、世の中うまくいかないもんだな、と思った。

人が羨む様な男らしい外見を持っていながら、それがこいつにとっては不幸でしかないんだな、と。


目の前の立派なオカマも、20年前は悩める青少年だった。


「ちょっと、淳也、しっかりしなさいよ」

「してるよー……。してるー」

「もう、しょうがないわねぇ」

エレベーターホールに吹き抜ける風が涼しくて気持ち良い。
久しぶりに少し飲みすぎたかな。

ちょっと気が抜けて、楽しかった。

「げんたろー、あいがとー」

「何よ、もう。いい年して、限界くらい把握しなさいよ」

「ごめーん」

軽く鼻を摘まれて、えへへ、と笑う。
あー、甘やかされるって心地良い。

チンと軽い音がして、下ってきたエレベーターの扉が開く。

「あ、どうぞお先に」

エレベーターが到着したのに動かない従兄弟の視線を辿ると、狭い箱の中に数人の先客がいた。


「あ」



死神。

無表情の死神。

多分、目が合った。



それを断ち切るように扉が閉まる。



「ちょっと、やだ、淳也。ガン見してないでよ」

「今の」

「知らない? 星野の若頭」

知ってる。
よく知ってるよ。
私を必要としている人。
今、一番私を必要としてくれている人だ。

「この上に料理屋があるのよ。別れたって噂だったけど、続いてるのね」

「別れた?」

「そう。美人な女将とね。本命って噂よ」

「美人」

あら、興味あるの? なんてニヤニヤ笑う従兄弟に、へらりと笑い返す。
ちゃんと、笑えているだろうか。


あー。
あー。



まあ、分かってたけどね。

ショックうけちゃったね、私、今。



あー。

一過性だとしても、気の迷いだとしても。
そろそろ、認めようか。

今、この瞬間、私はあの死神の事を愛しいと思ってしまっているんだな。

何でそんな風に思うのか、自分でも分からないけど。
体の中心が、ぎゅっと、締め付けられるような気持ち。

愛しい、愛しいと叫んでる。





認めよう。
吊り橋効果でもなんでもいい。
私は、彼に惹かれている。


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