死神の帰る場所
本編
検証 吊り橋効果02

まいったと合図してからたっぷり時間が流れて、私の首をぐいぐいと締め付けるごつい腕が緩んだ。

けほけほと咳込んていると、並々と注がれたグラスが差し出される。
チラリと見れば満面の微笑みを浮かべる厳ついオカマ。

顔が近い。
膝もぶつかっている。
近い。

しかしまあ、いつもながら良い香りだ。
……壊滅的に似合わないんだけどね。

「弦太郎……」

「……今度は気持ちよく落としやろうか」

ヒっ。
おっかない。

低い声の脅しに助け舟を求めて視線をめぐらすと、蛍はいつの間にか他のテーブルに座っていた。

あれ、ご馳走様言われた……のかな?
私の視線に気づいてひらひらと手を振る蛍に、心の中でヘルプミーを叫ぶ。

もちろん届きゃしないんだけど。

「ごめん、ママ。勘弁して」

「次は容赦しないわよ」

複雑に胸の前で手を交差させてウインクをする従兄弟に、勢い良く頷く。
月に代わってお仕置きされるのは勘弁したい。

「で? 吊り橋がどうしたのよ」

「……聞いてたのかよ」

「うさぎイヤーは良く聞こえるのよ」

「地獄耳、コワ」

「……出禁にするわよ、あんた」

「あはは、ごめん」

気の置けない、いきつけの店がなくなるのはごめんだ。

従兄弟の弦太郎が営むオカマバー“Barムーンライト伝説”へは、月に二回は顔を出している。
普段そんなに酒を飲むことはないけれど、独り身の寂しい休日を埋めるこの場所は、結構重要だ。

弦太郎……もとい、うさぎママは、お察しの通り、子供のころに見たアニメに傾倒したまま育ってしまった。
その趣味全開の店は、意外と、本当に意外だけど、そこそこ流行っているらしい。


「で? 恋でもしたの?」

「……は?」


突然の切り返しに首を傾げると、ママも首を傾げる。
……可愛くない。

「違うの? 吊り橋効果なんて話してるから、淳也にもとうとういい人ができたのかなって」

「や。それは……ない……よ?」

「微妙なのね」

「う〜ん? いや、ないと思う。けど。最近、恐怖体験してさ」

「やだ、なに? 怪談? 季節外れよ」

ああ、やだやだと自らの抱きしめて体をくねらせる従兄弟は無視です。

「いやね、あんまり怖いと何かが麻痺したりするかな、って思って。吊り橋効果ってのもそういうのの類なのかなってさ、思ったわけ」

ふーん……とママがミニスカートの足を組みなおした。

……いい加減ミニスカートはやめて欲しい。


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