死神の帰る場所
本編
死神の意外性04

なんだか落ち着かない。


いやいや。
そりゃ、落ち着く方がおかしいんだとは分かってるけど。

正直、最近は心地よさすら感じていた訳です。
慣れって怖い……。
今更ながら、愕然とした。

夜12時過ぎ。
仕事の疲れもあるし、風呂に入ってさっぱりして、腹が膨らめば眠たくなる。

寝つきは良い方だ。
明るくても、五月蝿くても、気にせず寝られる。
フローリングの上でだって、電車の中で立って寝たこともある。

そんな私に、この部屋は快適すぎなのだ。

微かなサンダルウッドの香り。
上質で清潔な寝具。
分厚いコンクリートを通して、ほんの僅かに聞こえる外の喧騒。
オレンジ色の照明がぼんやり灯る空調完備の室内。

おまけに人肌ときたら。

寝るよな?
寝ちゃうよな?


……はい。
わかってます。
その人肌の主が問題なんです。



時計は10時を過ぎていた。
この時間に出かけるとなると12時までに帰ることはないだろう、と死神を玄関で見送りながら考えていた。

「藤本さん」

「……はい?」

私の名前……そりゃ知っていて当然なんだけど、何故だかドキリとした。

「多分、1時ごろ戻る。今日は、その時間まで」

いろってか?

じっと死神の顔を見てみるけれど、何の感情も読み取れない。
読み取れないのに、帰っちゃヤダ、なんて可愛らしい幻想が見えて、慌ててそれを打ち消す。
可愛くないから!
ホントに!
可愛さのかけらもないよ?

「分かりました」

首を縦に振れば、死神もこくりと頷いた。
その言葉どおり1時前に帰ってきた彼は、そのまま寝るという。


死神の寝室。

私の背中に彼の胸が当たる。
脇から前に回された両腕が私の体をぎゅっと抱きしめている。
頭の後ろには死神の顔があって時折鼻先が押し当てられる。


気の所為、だと思う。

頭にキスされているなんて。

足がぎゅうぎゅうと絡まって、胸どころか全身が密着している、のはたまたまだ。

死神の手が私の手をぎゅっと握る。


ざわざわと胸が落ち着かない。
いつもと違う……気がするのは……気がするのは……?



分かってる。
……私がいつもと違うから、だ。
死神はいつもこうして“抱き枕”を使っているんだから。


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