死神の帰る場所
本編
死神の意外性03

納豆チャーハンは意外と美味かった。

ネットで検索したレシピが良かったのだろう。

チャーハンだけでは寂しいかと思って、レトルトを使って八宝菜を作った。
私の大好物の近所の惣菜屋の唐揚げ。
もやしと人参をナムルにして、ちょっと贅沢にカニ缶を使ったとろみスープも作った。
かき玉子がふんわりと散って、大満足だ。


ちょっと食べ過ぎてしまったようで体が重い。
片付けなくては、と思いながらも、体が動かない。


正面の死神は、無表情で茶をすすっていた。
相変わらずの骸骨のような佇まいからは生気が伺えない。

彼も相当な量食べたはずなのだけど。

あの細い体の何処にメシが入っているんだろう。
不思議だ。


「食べないから太らないって訳じゃなかったんだ……」

「…………」

視線を受けて、あ、タメ語だった、と気づいた。

「すね……」

っく、苦しい……。
だすねって何だよ、と心の中で悶絶する。
死神の沈黙が痛い。
痛い。


「……若いから」

「へっ?」

思いも寄らない言葉に、聞き間違いかと死神を見ると、視線が私の腹に注がれていた。

その視線に沿って自分の腹に視線を落とすと、ぷっくりと膨れたフォルムが、シャツに透けている。


こ、これは!


今、満腹まで食べたからであって!
最近、腹筋をサボっているからであって!


……去年くらいから、ちょっとずつ腹の贅肉が気になっていたのは……はい、認めます。

今までと同じ生活をしている筈なのに。
年をとるって恐ろしい。
悲しくなりながら腹を引っ込めながら丸めて、シャツを引っ張る。
あんまり見ないで欲しいなあ。


「ふっ……」


微かに空気が揺れた。


……笑った?


どきり、と鼓動が跳ねる。
野生動物を驚かせないよう気配をころして、そっと死神を盗み見る。
無表情な顔の窪んだ目は虚空を見つめていた。

……気のせいだったのだろか。


「……出かける」

「あ、はい。行ってらっしゃい」


ゆらりと長身が立ち上がったので、かなり上を見上げる形になった。
この時間から出かけるのならば、12時前に戻ることはないだろう。

「ご馳走様、美味かった」

「!」

見下ろされる視線が、何となく優しい様な気がして。
もちろん、そんなの気のせいだって分かっているけど。

嬉しい。
とか。

ときめいた。
とか。


気のせいじゃなくて、自分でもびっくりだ。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -