死神の帰る場所
本編
死神の意外性02

「食べる時にはいただきます」

「……だきます」

「はい、おあがりください」

素直に復唱する素直さに微笑みそうになる。

姿勢は良くない彼だが、箸の使い方は綺麗だ。
じっと見ていると、視線が気になったのか、窪んだ瞳が持ち上がった。

「なに?」

「何でもないです」

ふるふると首を振って、箸と茶碗を手に取る。
少し遅い夕食だが、暖かい湯気の上がる食卓。
幸せだ。



会社との話し合いの結果、店舗を上がってから、ここに来る事に落ち着いた。

職場と自宅、自宅とこのマンションはわりと近い。
それでも、急がなくては約束の時間に遅れてしまう。
帰宅して、シャワーを浴びて、コンビニのおにぎりを齧りながらマンションに向かう。

そんなに急いだって、家主が出迎えることは稀だけど。
仕事なのだから、時間を守るのは当然だろう。


でも、さすがにおにぎりにも飽きた。
夜くらいゆっくりと食べたい、とも思う。


「この部屋で夕食をとってもいいですか?」

一週間くらい前、そう死神に聞いてみた。

寝室の照明は暗く、私の背後にいる彼の表情を見ることはできない。
規則正しい鼓動の音と、つむじをくすぐる呼吸に勇気を出して、聞いてみた。


暫く無言だった。


発言を後悔しだした頃に、死神の小さな声が後頭部の髪の毛をゆらした。

「……作るの?」

「あ、いや、そこまでは……」

ゆっくり座って食べられればいいと思っただけで、弁当やテイクアウトを利用するつもりだった。

「料理できるの?」

「大したものは作れませんけど……自炊くらいはできます」

「そう」

むくり、と起きあがった死神に合わせて体を起こす。
何をするのだろうと目で追うと、ヘッドボードに置いてあった財布を手にした。
死神の細い指が中から取り出したカードを、私に差し出しだす。

「え? あの?」

「食費。夕食、作って」

「え……?」

見ればそれは超有名なクレジットカードで、緊張で鼓動が早くなる。

「や、いや、人に食べさせられるようなものは! 作れませんから!」

そんなカードでどんな高級食材を買わせるつもりなんだ?
近所のミートショップには、オージービーフのサーロインくらいしか置いてないぞ。

「……明日」

オレンジ色の間接光のおかげで、死神の白い顔に赤みが差しているように見える。
瞳にもその光が瞬いていて、気のせいか微笑んでいるように感じた。

「オムライス」

「おむ……ふ……」

その瞬間は死神に対する恐怖なんかが薄れていて、思わず笑ってしまった。
オムライス。
その位なら作れる。

「味は保障しませんからね? ……カードじゃなくて、領収書じゃだめですか?」

そんなものを持って歩くなんて、考えただけで震えてしまう。


うん、とおとなしくカードをしまった死神の、枕に加えて、おさんどんが仕事に加わった瞬間だった。


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