死神の帰る場所
本編
死神の意外性01

「納豆チャーハン」




……。




「NO TITLE」のメールを開けば、その一行が目に飛び込んできた。

納豆チャーハンね。
納豆かあ。
正直あんまり好きじゃないんだけどな。


「どうしたんですか、藤本主任」

「ンん? 何が?」

「にやにやして。思い出し笑いなんて、いやらしいですよ〜」

「え? 私? にやけてた?」

部下の笑いを含んだ言葉に思わず顔を触る。
いや、それはちょっと、想定外だ。

「ええ。もう、にっこにっこしてました」

「うわ。それは……恥ずかしい」

それは、なんだ。
彼の事を考えて、顔が緩んだと言うことか。

納豆なんてとても似合わない、彼の陰惨な顔を思い浮かべて赤くなる。


そう。
今ちょっと、可愛いなあと思ってしまったんだ。
可愛いなんて言葉、似合いもしないのに。


最近、そういうことが良くある。

動作の端々に、若さというか、幼さというか。
親しみやすさの欠片を感じて、ああ、可愛いなあと思ってしまう。
年の離れた反抗期の弟に相対しているような、そんな気分。

いや、ちょっと違うか。
意思の疎通なんてできないと思っていた珍獣、かな。

思いがけず懐いてくれた。
心を開いてくれた、と感じて嬉しくなる。
その度に、心がほっこりして、頬が緩んでいたりして。

はっと気づいて慌てることもしばしば。


まいった。
慣れすぎだよ。

額に手を当てて「まいった」とつぶやくと、部下におっさん臭いと笑われてしまった。
おっさんじゃない、とは言い返せない36歳。
うぐぐと唸りながら軽く睨むと、売り場に逃げられた。


若いつもりでいるが、若くはない。

……若いつもりだけど。


体を動かすことは好きだ。
走ったり、筋トレしたり。
ソフトとバレーのチームに顔を出したり。
その辺の若者には負けないくらいの持久力はあると思っている。


でも、まあ、おっさんだよな。


開いたメールを消去して、私も売り場に向かった。


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