会長^2
会長軟禁された
05

side:坂本


静かな空間。
雫様はまだ戻ってこない。



分かってる。
俺はこいつに好かれていない。

出会った頃からそうだ。
俺が勝手に世話を焼いているだけ。
知ってるけど、何だか放っておけない。


今回だって。


久しぶりに連絡をとれば、勤め先を解雇されたという。
理由を聞けば、とんでもない横暴じゃないか。

電話口で憤慨する俺に、用がないなら、と電話を切られた。

んな事でへこたれる俺じゃねえよ?
速攻でリコールすれば出やがらない。

再び電話がつながったのは三日後。
その間に俺が電話をした回数は……履歴が埋まるくらいの回数。


出ないのに、着信拒否まではしない。
石井はそういう奴だ。


「はい、石井です」

「あ、坂本だけど。今いいか?」

「ああ、うん、どうしたの?」


そして、電話に出なかった事を謝りもしない。
何事もなかったように、ふわふわと受け応える。


友達、ではないんだろう、俺は。


たまたま、大学時代の下宿先が隣同士で。
たまたま、ちょっとしたきっかけで、俺がこいつを構うようになて。

いつだって、連絡は俺から。
ひょっとすれば、こいつのスマホに俺の連絡先なんて登録されてないかもしれない。


それでも、気になるんだからしょうがない。


何となく危なっかしくて。
どこかで野たれ死んでんじゃないかと不安になる。

知らない所でそんな事になったら、俺はきっと後悔するだろう。


だから、いいんだ。

本気で拒絶されないうちは、俺はこいつを気にかける。


「石井さ、恋人どうしたの」

「ん? どのー?」

「どのって……」

間延びした返答に困惑する。

「坂本の知ってる大学ん時の人は、まだたまに会ってるかな? 講師の時に付き合ってた人は、クビになったって言ったら連絡付かなくなったなあ」

「何だそれ」

「んー? ヒモみたいな人だったから、収入なくなって見限られたんじゃない?」

「おまぇ……」

「エロくて体の相性は抜群だったんだけどねー」

「残念」と、微笑んで優雅に紅茶を飲む石井に呆れてしまう。

「……さっき……」

「ん?」

「石井、この屋敷では変な事するなよ」

「あー……」

石井の目が、きゅっと細められた。
ぼんやりした顔に、ドキリとする程妖艶な笑顔が浮かぶ。

困った奴だ。


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