会長^2
会長軟禁された
04

side:石井


雫君は可愛らしい。

だけど、どこか大人びている。


今まで見て来た、どのタイプの生徒にも当てはまらない。
不思議な子だなぁと思う。


おやつのドーナツを美味しそうに食む少年を見ながら、よい香りの紅茶を頂く。

職を失って困っていた所に舞い込んだ、好条件の口利き。
お人好しな知人からの紹介だ。
もちろん、二つ返事で引き受けた。

事情のある子供の住み込みの家庭教師。

大まかな事情は聞かされているが、それでも不思議な事が多い。


まあ。
どうでもいい事だけどね。

「あ、いしー先生、勇気クンだよ」

この仕事を紹介してくれた知人の名前に、顔を上げた。

見知った顔が窓の外からこちらをのぞいている。
ぶんぶんと手を振る雫君に、角刈りの下の良く日に焼けた顔を赤くさせた。

……気持ち悪い奴だなあ……。

「勇気クン、勇気クン、寒いでしょう? お茶どうぞ?」

雫君が窓を開ければ、強い寒気が部屋に侵入して来る。
そんな奴、放っておけばいいのに。

ほら、断ってるんじゃない。

そんな、しつこく誘わなくても……。

「そうですか……?」

のこのことテラスから室内に上がり込んできた勇気のアホ面に、内心溜息が洩た。

面倒くさい。

悪い奴じゃないのは承知しているけれど。
暑苦しいし。
面倒くさいんだよね。

恩人に向かって、失礼なんだけどさ。

「あのね、私、お父様にお茶をお持ちしてくるね」

「え? 雫君?」

「あ、それなら自分がっ、あ、ダメか……分かりました」

ソファに下ろしかけた腰を浮かした勇気が、雫君を引きとめようとして引き下がる。

旦那様の部屋には雫君と主治医以外は入れないらしい。
当然、僕もお会いした事がなく、挨拶すらしていないんだけど。

雫君のお父さん。
正直、どんな方か興味があったりする。
雫君は、あまり奥様には似た所がないから、旦那様に似ているのだろうか。
なんて、想像するのが楽しい。

「では、勇気クン、いしー先生と待っててねー」

「いってらっしゃいませ」

「はーい」

ぶんぶんと手を振る雫君に笑顔で答える。

成程。
僕の暇を埋める気遣いだった訳だ。

……ちょっとありがた迷惑なんだけどね。
勇気と話をするくらいならば、新聞の社説でも読んでいた方がまだマシだ。


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