collar
緑と青
01

#5の濡れた様に艶めく長い髪が、#10の腕に絡み付いている。
意思を持った毛先が蠢く様はホラーだが、#10にとっては自分を求め頼るその動きがただ愛しい。


共用スペースに置かれたソファに座った#10の膝に巻きついた#5はすらりとした体を小さく丸めて小刻みに震えていた。
イメージを発動させた#10の褐色の柔らかな手が、ゆっくりとその頭を撫でる。

#10のイメージで体にできた傷を治癒するのは容易いが、心を癒すのは難しい。
傷つきやすい繊細な心ならば、余計に気を使う。

他のナンバーズがどう思っているかは知らないが、#10はこの#5を慈しむ事ができるイメージに満足していた。


ぽつりぽつりと#5が紡ぎ出す言葉を、急かす事も否定する事もせず、ただ相槌を打つ。
#10のヒーラーとしての本能がそうさせるのだろう。
しかし、心中は複雑だ。

#5と#3との修練の最中に#3が暴走し始めた件に差し掛かると、苛立ちに#10の腹の内側にどす黒いものが渦巻いた。

毎度、精神的に未熟な二人は、遊びの延長で突発的に修練を始める。
エスカレートしていくやり取りの中で不安定なイメージが暴発する事も稀ではない。
大抵、周りにいるものが頃合を見てやめさせるのだが、間の悪い事に、今日は誰も見ていない所で暴発した。

負けん気の強い#3が巻き起こした爆発音に気づいて#10が駆けつけたときには、二人とも満身創痍の状態だった。

#5は#3のイメージで傷つき、#3もまた、自らの強すぎる力で傷ついていた。
#5は相手のイメージを吸収しようとしたようだが、制御など念頭にない#3が発動したイメージはなかなか手に負える物ではない。


#3に悪気がない分、#10は忌々しく思う。
#5に#3を嫌うそぶりのない事がそれに追い討ちをかける。

#5には清らかな外見どおりに心穏やかに過ごして貰いたい。
そして、そこに自分がいられたら……幸せだと思う。

その安寧を叩き壊す#3は目の上のたんこぶのようなものだ。

しゅーっというエアー音に顔を上げると、#3の部屋から主ではない大柄な人物が姿を現した。
二人に気づいて近付いてくる。

「#5、心配ナイ」

彫りが深い顔立ちに微かに笑みを浮かべた#9が、静かな声を地にひびかせた。物憂げに持ち上げられた#5の顔を見ると、泣きはらした目が赤くはれている。

「眠らせた。起きる頃には回復しているダロ」

「……そう、よかった」

消え入りそうな声で#5が呟く。
微かに浮かんだ微笑が、#10は面白くない。
#3の事などどうでも良いではないかと、嫉妬心が渦巻く。

顔に出ていたのか、目が合った#9が片眉を持ち上げて見せた。

「あいつも、悪気はナイから」

それは分かっている。
こくりと頷く#5に気付かれない様に、#10はふっくらした頬を膨らませて#9を軽く睨んだ。
その仕種に#9がにやりと笑って片手を挙げると自室へと踵を返す。
頭頂部で括られた金色のたてがみのような髪の毛が揺れるのを目で追う。
その#10の柔らかな頬に、ひんやりとした物が触れた。


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