明日もFull Moon
夜明けのプランゾ
兼家

どうしよう……。
彼が待っているのに口から言葉が出ない。

こんな……。

こんなこと……。


頭に浮かんだ言葉は、羞恥に阻まれる。


ふっと彼が微笑んで、暖かい掌が私の頬に触れた。

心地よさに、不思議と体の力が抜ける。
掌に顔を摺り寄せるようにして瞼を下ろした。


私だって、彼を求めている。
その事を伝えたい。


「尻尾じゃなくて、君のぺ……っぺ……。……君の、ここが……良い」

「!」

手を下ろして、服の上からでもその熱が分かる彼のペニスにそっと触れる。
私に欲情しているのだと思うと、喜びが膨張して胸が破裂しそうだ。


尻尾で愛撫されるのではなく、彼自身と繋がりたい。


ここで繋がったときの、彼の人間臭い顔が好きだ。

嬉しそうな、少し苦しそうな、いつもは見せない余裕のない顔。
吐き出される荒い息づかい。
うっすら汗ばんでしっとりと吸い付くような肌。
少し長い前髪が額にかかるのをかき上げる仕草。
私の顔の横に付いた筋肉質な腕のフォルム。
精を吐き出すときの遠くを見つめるような瞳。

彼が何者であろうとも、その一瞬、私と繋がっている彼は紛れもなく彼として存在している。
私の大切な人として。


ぎゅっと力強く抱きしめられたと思った途端に、強い眩暈に襲われた。

「っ!!」

「あ! ……ごめ……!」

がばっと体を引き剥がされて目を丸くすると、彼が苦笑を浮かべていた。
眩暈は消え、私たちを中心に風に乗ってかさかさと塵が回転する。

それが落ち着く頃、眉間に額が押し付けられた。

「思わず連れて帰りそうになっちゃった」

「ああ……」

「あんまり可愛い事いっちゃ駄目だって。必死で我慢してるんだから。今すぐ食べたくなっちゃう」

私は今、連れ去られる所だった訳だ。
ため息をついて決まりの悪そうに笑う彼に、失礼ながら笑ってしまった。
彼の余裕のなさが嬉しい。

「急いで帰るから、あと少し待ってくれ。私も、……早く」

「ああっ! もう! だからっ!!」

「あたっ」

鼻をがぶりと噛まれる。
痛いじゃないか。

「もうっ! ボク帰るから! …………早く、帰ってきてね?」

「ああ、分かった」

差し込んできた朝日に目を細めると、にっこり笑いながら手を振る彼の姿がブレて、あっという間に掻き消えてしまった。

あっけない。
別れを惜しむ暇もなく行ってしまった。
途端に夢を見ていたのじゃないか、と不安になる。
だが、微かに漂う香りが彼がここにいた事を証明している。


会いたい。
今先ほどまで触れ合っていたのに、強くそう思う。
彼のいない生活に4ヶ月もの間どう耐えていたのか、自分でも分からなくなってしまっていた。


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