明日もFull Moon
夜明けのプランゾ
兼家

彼は人間ではない。
その気になれば言葉の通り、私をこの場から連れ去ることができるだろう。

「飛行機を、予約するよ……」

それをしないのは、私が甘やかされているから。
これだけ長い期間自由を与えてくれたのも、そう、ただ、甘やかされていただけの事。

顔を上げて正面の青年に力なく笑いかけると、花のように顔を綻ばせた彼がぎゅっと私を抱きしめた。

「良かった! ほんと寂しくて、死んじゃうかと思った!」

「すまない」

出会った時と何一つ変わらない無邪気な彼に、この数ヶ月間緊張しっぱなしだった心と体からふっと力が抜けていく。

彼は私を愛してくれる。
その事は揺ぎ無い真実として私を包み込む。
歳を重ね老いを身に刻んでいく私を、変わらず慈しんでくれる。


そんな彼を、私も愛している。

……愛しているんだ!!


だからこそ、心が引き裂かれる。
愛する事は罪なのか。
赦されざる罪なのか。

それならば、この気持ちはどうしたらいい?

悔い、改めよと、言うのか?




寸分の悔いもない、この気持ちを、改めよと……?





すん、と彼の鼻が鳴った。

背中に回された彼の両手が、私の背中に張り付いたままじわりと移動し始める。
私の形を確かめるように、硬さを味わうように這い回る掌に性的な匂いを察して私の息に熱いものが混じる。

筋を辿り、骨格をなぞる指に知らず知らず意識が集中していく。
快感の芽を摘み取って震えそうになる体を強ばらせて、彼の肩に顔を擦り寄せた。

薄手の服を通して頬に感じる彼の体温に心がじんわりと暖かくなる。

身勝手に家を出た私には言葉にする権利はないが、自分も「寂しくて死にそう」だったことに改めて気づく。
不惑、知命を疾うに超えたおじさんがそんなことすら分からないなんて、滑稽でしかない。

「…………」

彼の本当の名を、音に出さずに口の中で呼びかける。
すると彼が私の耳朶に唇を寄せた。

「兼家さん、愛してるよ」

チュッと言うリップ音と共に吹き込まれた甘い囁きが私の心を擽る。
密着した彼には早鐘のような鼓動を隠しようがない。
微かに空気が揺れて、彼が笑みを漏らしたのが知れる。

せめて赤くなった顔は気付かれませんように。
彼を抱く手にぎゅっと力を込めた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -