明日もFull Moon
夜明けのプランゾ
道長

彼の目に自分が映りこんでいる。
ただそれだけの事に、歓喜で体が震えた。

彼の温もり、彼の匂い、彼の眼差し。
彼の全てが僕の腕の中にある。

4ヶ月ぶりの再会に喜びがじんわりと心と体を満たしていく。


ああ、もう、イっちゃいそう。


思わずもれた笑みに、彼の眉が僅かに歪んだ。
ふいと彼の視線が落とされると、意外と長い睫が影を落とすのが美しい。

溜まらず、その少し窪んだ瞼に口付けした。

「兼家さん、寝不足は駄目だよ」

毛穴のない薄い皮膚とつんと伸びた睫の感触を十分に楽しんでから、その目の下に浮き出る隈を指先で撫でる。
彼の全身を纏う疲労が見て取れて痛々しい。
眉を下げて心配そうに覗き込むと、うっすらと頬が上気した。
誠実な素振りをするその実は、愛しい人の心を占めるのが自分だろうことに抱く満足感の方が強かったりする。

「そろそろ、帰っておいで」

帰ってきたら、思い悩む暇なんてない位にどろどろに甘やかしてあげる。

台詞からにじみ出る甘い誘惑を敏感に感じ取った彼の体が、ぶるりと震えた。

「あ、イヤ……まだ……」

自分の体を抱きしめるようにして、彼が首を横に振る。

駄目だよ。
ボクはもう待てない。

もう十分待ったと思うよ?

じっと見つめると頼りない呟きが漏れた。

「まだ……、私は何も成し得ていない。この地に来た時と何一つ……変わっていない……」

苦しげに吐き出す台詞を神妙に受け入れる。
彼は高潔だ。
ボクの存在は認めた上で、自分の弱さを忌み嫌う。

「兼家さんは、兼家さんだから、仕方ないよね」

彼は自分の罪を認めながらも神の前で悔い改められない自分を弱いと思っている。
必死に赦しを請いながら、内心は厳罰を下されることを求めている。

それは弱さではないだろうと、ボクはいつも思う。
もし仮に神が赦したとしても、きっと彼は自分で自分を赦す事ができないのだから。

それなのに毎度、無駄なことを繰り返す彼の愚かさは愛しいものだ。


そもそも。
まあ、これは彼には言わないけれど。
そんな瑣末な事に心を砕くような神がいるならば、ボクは今ここに存在すらしないと思うんだよな。


にやりと笑って耳元に口を近づけた。

「今、このまま連れ帰るのと、自分で帰ってくるのと、どちらか選んで」

あなたの選択肢はこの二つしかないんだよ。


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