明日もFull Moon
夜明けのプランゾ
兼家

東の空が僅かに白み始めた。
バルコニーから眼下を眺めると、石造りの町が幽かに青く浮かびあがる。
水面に沈んでしまったかのようなその景色の荘厳さに、溜息を漏らしそうになって慌てて押し殺した。

この清浄な空気を汚してはいけない。


自らの汚らわしさを浄化したくて、日本から遠く離れた異国の地に逃げ出した。
この聖地ならば私を救ってくれるのではないかと。

だが、この地の清らかさは却って私を苦しめる。


神よ赦したまえ。
このか弱き子羊を救い、導きたまえ。


告解もただ虚しく、罪を再認識するだけの作業だった。
それを分かっていながら、繰り返し許しを乞う毎日。


私は何故ここにいるのか。


目的を見失っては、日本に残してきた家族を思う。
脳裏によぎるかわいい我が子の笑顔に愛しさを募らせる。
この胸に抱きしめる温もりを夢想するのも束の間……己の汚らわしさを思い出して絶望する。

そしてまた懺悔の日々の繰り返しだ。


神よ、私の罪は赦されるのか?
赦されざる罪ならば、せめて罰を与えたまえ。


澄み切った明け方の空気の中に暖かく芳醇な層が流れ来たのを嗅ぎ取って、まさかと、ぎくりと身を硬くした。
慣れ親しんだ芳しい香りに、何とも言えない気持ちが溢れて胸が締め付けられる。

「兼家さん、迎えに来たよ」

耳元を美声が擽る。
すらりとした両腕が背後から腰に回されて、優しく抱きしめられる。
背中に密着した体からは心地よい暖かさが伝わって、とろりと心を蕩けさせた。

「君は……」

私を抱く腕を辿って瑞々しい手の甲に、己の手を重ねる。
白く長い指先に点る桜色の美しい爪をかさかさした指先で辿るように擽ると、背後の人物が微笑んだのが気配で知れた。

「ここにも平気で来られるんだね」

「ここ? 今度はどこなの?」

「信仰の中心地」

「へえ……」

微かに身を捩ると、抱きしめていた手が緩められて私の体が反転するだけのスペースが生み出された。
僅かに高い位置にある端正な顔を正面から見つめると、ふわりと笑いかけられる。

邪悪なはずの彼の笑顔は美しく、私よりも遥かにこの神聖な場に馴染んで見えた。


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