童話体験
にんぎょ姫
現B

必死に頼み込むと、雷は渋りながらも頷いてくれた。

人徳。
ではなく、きっとテスト期間におとなしく協力しておいたからだろう。

「わかったから、先にこれを外せ」

ぶんぶんと動く範囲で腕を上げ下ろしするのが、子供が遊んでいるようで可愛いらしい。
憮然としていても、可愛く見えてしまうから不思議だ。

「だーめー」

「あ?」

「ボクの身の安全のためっ!」

「お前が変なことしなきゃ、手ぇあげたりしねえし」

それがお約束できないもので。

「俺の身の安全はどうなるんだよ」

「手ぐらい使えなくったってぴかちゃん、ボクより断然強いじゃない!」

素手なら、ね。

「そりゃそうだけど……」

ぶつぶつ言いながらも諦めつつある様子で、雷はソファにもたれ掛かった。

なんてチョロいんだ……。
ボクは心配だよ。
変なおじさんについて行ったら駄目だよ。

斗真はいそいそとメモを用意して、雷から少し離れて正座した。


「まずはー、全体的な感想? 変なとことかあった?」

「あ、そうだ。今回の、強制終了できないし、声も出ないし、バグってんじゃねーの? 俺が俺って意識もなかったぜ?」

「あー、それはいいんだー」

そういうプログラムですから。

「五感への違和感なんかは?」

「ちょっ、いいって……良くないだろ? その所為で……」

みるみる顔が赤らんでくる。
プレイ内容を思い出しているんだろう。

「ちゃんと気持ちよかった?」

にやりとしながら意地悪に尋ねると、雷の体が弾かれたようにびくりと跳ねた。

良かったよね。

ゲーム中では声が出ないよう設定してあるが、消音しているだけで発言内容のデータは把握できている。
あれだけ良い声で喘ぐことができるなら上出来だ。

声が出ないという安心感でストッパが効かなかったんだと思う。

「だいったい! 何なんだよ、あのゲーム。ゲームじゃねぇじゃん」

恥ずかしがり屋の雷は、じたじたしだした。

「サウンドノベルになるのかなー。前回のはシミュレーションのデモストーリーだったんだけど」

「前回……」

「うん。親指姫の。恋愛シミュレーションなんだよね。プレイしてみる?」

「いい! いいっ! いいっ!」

ぶんぶんと首を振る。
そんなに必死にならなくても良いのに。


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