童話体験
にんぎょ姫
現A

すっと雷の右足が高く持ち上げられた。

どがっ!

斗真の腹めがけて踵が急降下してくる。
横に転がって、すんでのところで避けた。

「ぴかちゃん、今の本気だったでしょ!? 死ぬよ? ボク死んじゃうよ?」

イヤな汗で脇が気持ちが悪い。
スポーツ特待生である雷の蹴りの威力を身を以て体験する気はない。

「死ななきゃ治らないらしいからな。治療してやんだよ」

雷の声が低い。
大層ご立腹の様子だ。

「やだなぁ、ぴかちゃん、怖い顔だよー」

「……っあああっだあっ! おっまっえーはーあーあーっ!」

「まあまあ、ぴかちゃん、素敵なお顔が台無しよー」

「何なんだよっ、おまえ……ほんと……もう……訳分からん……」

距離を取りながらシナを作ると、雷は脱力して床に座り込む。
怒りが続かない。
気持ちが良い奴なんだ。

「とにかくさ……これ外せよ。もう。いいから」

溜め息を付きながら両手を前に突き出す。
両手首がナイロン製の結束ひもで括られた状態だ。

勿論、傷つかないように皮膚とひもの間にタオルをはさんである。
その辺は抜かりない。

「殴らない?」

「ああ」

「ほんとー?」

「もう頭突き入れたがら良い」

「ぴかちゃん、おでこ堅すぎだよー」

斗真は打ち付けられた額をさすりながら雷の正面に正座した。
少し熱を持っている気がする。
後で冷えピタでも貼っておこう。

「おら」

雷が両手を付きだして、斗真の胸を軽く叩く。

斗真はその手を両手で包み込んで雷ににっこり微笑みかけた。

「その前にっ」

「あ?」

「新作の感想、教えてー」

「あ゙あん?」

反射的に引っ込めようとした手を逃がさないよう握りしめる。

「ほら、前回の感想もまだ聞いてないしー!」

ちゅっ。

雷の戸惑った顔があんまり可愛くて、思わず鼻にキスをした。

理性あっての人間だと信じていた。
しかし衝動的な行動は、ある意味、理性的なものより人間的なのかもしれない。
へらへら笑いながら斗真は自分の行動を分析する。


雷が驚いて硬直したのを良いことに、もう一度、鼻にキスをした。

「なっ!」

雷の顔が一気に真っ赤に染まった。

可愛い。もう一度……。

「あがっ!」

「この変態がっ!調子にのってんじゃねえ」

今再びの頭突きに、斗真が床に沈み込んだのは言うまでもない。


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