「
童話体験」
にんぎょ姫
現@
斗真はヘッドフォンを外すと、がしがしと頭を掻いた。
モニターから顔を上げ、ソファに横たわる雷に視線を移す。
「あれっ!?」
既に目を覚ましていた雷は、天井を見つめていた。
「ぴかちゃん、オハヨ?」
声を掛けても反応がない。
明らかにおかしい。
普段ならば飛び起きて、罵声の一つ、パンチの一つ位の被害はあって然るべき場面だ。
雷に近付いて顔をのぞき込む。
内心、ゲームの副作用でどうかしてしまったんじゃないかと、不安でちょっぴりドキドキしている。
自分の顔を雷の視界に入れると、漸く動きを見せた。
雷の焦点がゆっくりと自分の顔に結ばれたのが分かった。
心の中で安堵の溜め息を漏らす。
リセットコマンドを無効にした弊害かと、本気で焦っていたのだ。
そっと額に巻かれた固定を外す。
「……ぴかちゃん?」
斗真の顔を見つめたまま、また静止してしまった雷に声を掛ける。
やっぱりマズかったのだろうか。
再び不安がわき上がる。
顔色なんかは、別段問題はないようだけれど……。
普段、表情豊かな雷の真顔など、なかなか見られるものではない。
こんなに整った顔立ちをしているのにそれと気付かれないのは雷の良いところだと、斗真は常々思っている。
残念な子なのだ。
馬鹿な子程可愛いと言うのは真理だと思う。
と。
固まっていた雷の表情がふわりと溶けるように変化して、斗真に笑いかけた。
それはもう、誰もが目を奪われるような、微笑みで。
「……!」
知らず知らずのうちに斗真は、雷の顔に引き寄せられた。
呼吸の微かな音が聞こえる程。
雷の体臭を感じる程。
視界に顔が収まり切らなくなる程。
二人の顔は近付いていく。
そして、ついに。
ごっ!
「っ! ……だあ゙あ゙あ゙ー!!」
鈍い音と共に、斗真の無駄な長身が床にのたうち回った。
「あ゙ーあ゙ーあ゙ー! ヤバい。今のはヤバいよぉ」
一瞬目の前が真っ白になった。
頭突きをくらった額はさることながら、耳と鼻の奥が痛い。
完全に油断していた。
「ひどいよー」
演技ではない涙目で雷を見上げる。
ソファから立ち上がった雷が仁王立ちで斗真を睨みつけていた。