何時だろうと思うのはいいが、重い荷物を持った腕を持ちあげるほど知りたい訳ではなかった。

「(寒い)」

爆弾低気圧なんてのがやってきて、ブーツを履いていても指先から冷えていくような、そんな寒さ。
内臓から温まらないとやってられない。
無理矢理にも聞こえる理由をつけて、鍋の材料を片手にぶら下げている訳だ。
あいにく忘れた手袋のせいで(いや、もしかしたら手袋があっても変わらないかもしれない。)指先は冷たいを通り越して、痛い。
袋の持ち手をぎゅう、と握りこんで、首を縮めてマフラーに埋まる。
こんな日は、暖房の前がいい。
少し暖まったら、鍋を作ろう。
どうせ彼が帰ってくるのは、準備が全て終わっても、そのもう少しあとだ。

一際大きく足を踏み出す。
反対の歩道をランナーの人がかけていく。
シャカシャカと擦れて音を出すウインドブレーカーの音が少しずつ離れて行った。
…寒そうだなぁ。走ったら暖かくなるからあんな軽装でも大丈夫だというコトなのだろうか。
今の寒さを考えて、ぶるりと身震い。
今度は自分の後ろから来る走る音に、歩道を少し空けた。



しかし、足音は何故か私に近付くと突然その音の感覚を広めた。
不思議に思い、振り返ろうとするのと、

「ったく、無用心ッスね」

袋を持っていない手を握られるのは同時だった。
くんっ、と心臓が持ち上がったような気がした。

「…早くない?」
「元バスケ部、なめないで欲しいッス」
「そうじゃなくて」

首を降りながらそういうと、涼太は大きな体に似合わず可愛く首を傾げた。
寒かったんだろうなぁ、鼻の頭が赤くなっている。

「仕事。もっとかかるって行ってたじゃん 」

ご飯何もないよ、と言えば、何故か涼太はずっこけた。
今度はこちらが首を傾げる番だ。
元の位置に戻った涼太は、なんとも言えない顔でがりがりと頭をかく。

「もー…、色気もなんもないっつーか…」
「涼太?」
「デート、みたいっしょ?」
「へ?」
「デート」

困った顔のまま笑うから、また心臓が持ち上がった。
握られた手がもそもそ動いて、するりと指の間に入ってくる。所謂、恋人繋ぎだ。
手袋を忘れた手は、指先がかちこちになっていた。
だけど、掌は暖かくて、絡めとられたそれはちゃんとその大きな手から熱を感じる。
手なんて繋ぐのいつぶりだっけ。そう考えると、急に恥ずかしくなって視線を下げた。
隣からは嬉しそうに笑う声が聞こえる。

ふと、涼太が立ち止まる。
手は繋いだままだから、必然的に私の足も止まる。
何事かと見上げれば、影。

「真っ赤ッスね」

また歩き出した涼太にエスコートしてもらうみたいに少し後ろを歩く。
いつもよりも唇が冷たいな、なんて思った瞬間には、耳まで熱くなっていた。
重い荷物も気にせずに、繋いでいない方の手の甲で口許を押さえる。
少しだけ触れた肌と肌は、頬にしたら手は随分冷たくて、手にしたら頬は随分熱くて。
荷物、と伸びてきた手にその重い袋を渡すけれど、半笑いな涼太がなんだか悔しくて体を寄せて軽く体当たりで反撃した。




冬の日












リハビリ


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