それから、ちょっとずつだけれど、忍足くんとあしゃべりするコトが増えた。
頭の回転が早いからか、オススメした本はすぐに読み終わるし、ストーリーも面白さもきちんと理解している。
さすがだな、と思いながら、毎回忍足くんがオススメしてくれる本を楽しみにしていた。
「あと、これもオススメ」
「恋愛小説?」
そう尋ねると、クククッと喉の奥で笑って頷く。
ここ最近でかなりの数の恋愛小説を読んだ気がする。
作家さんだって知らない人の本を何冊も読んだ。
「忍足くんは、どうして恋愛小説が好きなの?」
当番をしていると色んな人が本を借りに来る。
その中でも男の子が借りていく本は、話題になった本やアドベンチャー、SFなんかが多いのだ。恋愛小説を借りていく人はとても少ない。
氷帝の図書館はとても大きくて、9類の棚まではカウンターから距離がある。
当番がない日は、カウンターの生徒に睨まれないように9類の棚の前で忍足くんとおしゃべり。
一番上の棚の本を指で傾けながら、考えるように忍足くんが言葉を切った。
「せやんなぁ…、」
指に吸い付くように、すぅ、と抜けた本はやっぱり恋愛小説で。
色んな作品に触れたからなのか、雰囲気すらピンク色に見えた。
「男なんて、みーんなロマンチストなんやで」
はい、と手渡された本を抱える。
こんな、ありえないような恋がしたいというコトなのだろうか。
幸せではない痛みが胸を締め付けた。
あの日、忍足くんの誕生日に渡せなかったプレゼントは、すっかり鞄から姿を消してしまった。
意気地無しには、ロマンチックな恋愛は不向きだ。
部活に行く忍足くんの背中をじっと見つめた。
無理かもしれない
忍足祭6日目分
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