件の小説は、見た目のわりにとても読みやすく、読み耽ってしまうくらいに引き込まれていた。
その日のうちに読み終えてしまったのは、忍足くんに感想を求められたからだけではないくらいに面白かった。






「あ、」
「お、」

返却期限が今日までの本を返そうと、図書館の扉を開けると、同じように扉に手をかけようとしていた忍足くんがいた。
足がその場で止まる。
忍足くんは、するり、と廊下側に抜け出してくると、後ろ手で扉を閉めてしまった。

「えっと、あの…返却しなくちゃ…」
「あれ、読んだ?」
「へ?」

びっくりして見上げた先、にこにこと優しい顔で言われた「あれ」に一瞬首をかしげた。
何を?と問う前に思い出したのは褪せたハードカバー。
きっと、あの小説のコトなんだろう。
ひとつ頷くと、扉の前から少しずれて窓際に寄った。

「どないやった?」
「うん、面白かったよ。恋愛小説ってあんまり読まないんだけど…、きゅんってしながら読んじゃった」

あの男の子がね、
この時の女の子が、
俺はあのシーンが気に入っとるよ、
分かる分かる、

昨日のコトだからか、ストーリーは頭のなかに鮮明に残っていた。
忍足くんはどうやら何度もあの本を読んでいるらしく、図書館の入り口で一頻り盛り上がってしまった。

「苗字さんのオススメ、今度教えてくれん?」
「でも私、恋愛小説あんまり読まないよ」
「それでも。な、」

またこうやって語りたいんよ。

読書なんて、結局一人っきりの趣味だと思っていた。
読んで吸収して、それだけだと思っていた。
忍足くんがそう言ってくれたのもある。
だけどなにより、私もこのおしゃべりが楽しかった。

ひとつオススメの本を教えて、部活にいく忍足くんを見送った。
また、おしゃべりしたいな。






いつまでも一人ぼっちじゃあないよ









忍足祭5日目

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