「(あれ…)」
何回も読み込んだ気に入ったの本を取ろうとした手が止まった。
誰も読まないような古びた小説。
同じ棚に収まる新しい小説に埋もれるほど背も褪せて、俺しか借りないような。
行き場のなくなった手を顎にあてて、少し。捨てられてしまったのだろうか。
気に入っていたからそれであれば寂しい。
…今日は、木曜日か。
カウンターは、去年のクラスメイトのはず。聞けばいいか、と足を進めた。
ガッシャーン!
本棚の出口の先、目指していたカウンターのあたりから大きな音が響いた。
慌てて本棚から抜け出すも、カウンターには人の姿がない。
利用者も少なく、遠い棚にいたり、イヤホンをして勉強していたりするからか、俺以外はこちらに目も向けない。
仕方なく、ぐっと体を乗り出してカウンターの内側を覗く。 あ、いた。
誰かの頭がカウンターの下で慌てたように動いていた。
落ち着きのないクラスメイトだった、ふぅとひとつ息を落としてからカウンターの中に潜り込んだ。
床に散らばっていたのは、利用者カード。
そういえばカウンターの上にあるはずのそれがなかったような気がした。
とりあえず手元にあった1枚を拾い、また一枚。
1学年分だけだったのが不幸中の幸いか。
それほど時間をかけずに拾うコトができた。
そして、拾ったカードを手渡そうとした時に気づくコトになる。
「お、忍足くん…?」
「え、」
カウンターの内側に見えた誰かは、落ち着きのない元クラスメイトではなく、昨日会いたいと願った苗字さんだったコトに。
見上げるまで気づかない
忍足祭3日目分
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