小さく、できるだけ小さく。息を殺して身を隠した。

本棚の向こうには、忍足くんがいる。

告白、なんて縁のないものだと思っていた。
それがどうだ。胸の前で握りしめた包みを渡そうとしている自分がいる。





今日ほど図書委員でよかったと、放課後の担当でよかったと思った日はない。
ついこの間の跡部くんの誕生日は恐ろしいほどだった。
跡部くんまではいかなくても忍足くんは人気者だ。
朝も昼も、見かける度に女の子に囲まれていた。
小心者にはハードルが高すぎたんだ、そう思いながらしょんぼりとむかえた放課後の図書委員の仕事。
元々この時間は利用者が多くない。
司書さんもいるから、ほとんど仕事はなかった。
カウンターでぼんやりと利用者が来ないか待っていた、その時だった。

がらりと開いたドアを見て、体が固まった。
忍足くん、だ。
読書家なのだろうか、確かによくその姿は図書館で見かける。
けれど、今日は一日女の子たちに囲まれてしまっているものだと思っていた。
それがどういうコトだろう。

入ってきた忍足くんは一人きりだった。

すぅ、と本棚の間に消えていくのを見て、慌てて立ち上がる。
司書さんに一言かけて渡そうと準備したプレゼントを抱えて追いかけてきてしまったのだ。




棚の背に張り付くように身を隠す。
ばくばくとうるさい心臓を抑えようにも、どうしていいのかわからない。
音をたててしまわないように深呼吸、

「はぁ…」

ひっ、と息を止めた。
私の口からは音は漏れていない。
ため息のような声を漏らしたのは、間違いなく忍足くんだった。
こっそりと忍足くんの姿を覗く。
おでこを棚板にぶつけるようにして凭れかかるその姿を見て、今度はゆっくりとゆっくりと方向を変えた。
何を思って漏らしたため息なのかは分からなかった。
閉じられた目は教えてくれないし、ため息の意味もわからない。
だけど、

「(きっと、忍足くんは疲れているんだ…)」

今日一日彼を見ていて思ったコト。
休む暇さえないくらいに女の子たちからのおめでとうを聞いてきたのだ。
もしかしたら、私みたいに告白をした子だっていたかもしれない。
これ以上、彼を疲れさせてはいけない。
カウンターに戻ると鞄の中に握っていた包みを押し込んだ。

彼のためといいながら、こんなに心が痛いなんて。私はとんだ意気地無しだ。



ひぃみつ(ため息は内緒にしとくよ。)



















忍足祭1日目

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