彼女は有名だった。

「うん、…うん、大丈夫。自信持って」

そう電話口に話しかけて電話を切った。
その電話が終わると、狙っていたかのように廊下が女子生徒。
ありがとうと溢して去れば、男子生徒。
ほぼひっきりなしに彼女の回りは人で溢れていた。彼女は有名だった。

「苗字さん、相談乗ってくれてありがとう」
「私なんかでよければ、いつでも相談にのるよ」
誰の相談でも親身になって聞いてくれると。
そして口はとても固く、漏らされた情報はひとつとないと。
にこにこと笑う彼女は、ただの隣の席のオンナノコ。
寝たフリをしてこっそりと様子を伺うのが最近の俺の休み時間の過ごし方だった。

相談だけじゃない。

幸せそうな男女が一緒にやってくる。
どちらからともなく、彼女にむかって礼を言った。
こうして付き合ったやつらが、そしてフラレて慰めてもらいにくるやつが彼女の周りには溢れていた。
にこにこといつでも笑みを崩さない彼女は、誰からも人気者だった。



昼休みにそんなコトをして、聞き耳を立てているもんだから、疲れるらしい。
午後の授業を爆睡。
起きると、HRが終わったところだった。
ぐっ、とひとつ伸びをして隣を見れば、珍しく誰もたかっていない机。
帰る準備をする彼女に視線を送れば、それに気づいたのか、こちらをみてにこりと笑う。

「どうしたの?仁王くん」
「なぁ、苗字さん」

人当たりがいい。親切だ。心優しい人だ。いい人だ。なんて周りは評価する。
誰かに自分の話を聞いてもらうのは気持ちがいい。
だからか、誰も気づかない。

「そんなに引っ掻き回して何が楽しいんじゃ」

にこりとした笑顔が張りついたな、と感じた。
誰も気づきゃしない。

この女、到底長くは続かない男女だけを引き合わせてる。
幸せになれないやつらばかりくっつける。
だから、慰めて、と、相談乗って、それから、ありがとうが異常に多いのだ。
それはそれは丁寧に対応してやる。だから誰もこの女が何をしているか気づかない。
よく見れば分かるコトだ。
3ヶ月続いたやつらがいただろうか。

「キューピッド気取りの悪魔みたいじゃな、お前さん」
「コート上のペテン師だって、十分悪名高いと思うけど?」

人の幸せが私の幸せです。そんな笑顔が崩れて、人を喰って生きてます。みたいないやぁな顔。
ほら、これだ。

「なんでそんなコトする」
「そんなコト?」
「うまく丸め込んで、方向替えて、落とし穴に落として。引っ張りあげて、また落として」

誰も幸せにならんコト。そう言えば、苗字の唇がうっすら開いた。

「仁王くんと同じよ」
「俺?」
「楽しいでしょ?」

人を騙すのは。
確かに、人が驚いて、愕然として、体が弛緩してしまうようなあの瞬間はなんとも言えない。
それと同じだというのか?

「私はねぇ、幸せなやつなんか大っキライなの」


「誰も幸せになんかしてやらない」


誰も本当に幸せになんかしてやらない。
まるで獣が獲物を見つけた時のような目。
教室には誰もいない。

その目は完全に、飢えていた。



死にたがりの殺人鬼

























幸せを憎む女の子と仁王くん。

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