体に無理があるのは確かだ。
板の張った机は固いし、座ってその面に向かうように作られた椅子も、まっすぐ座ればいざ知らず。
板の上に体を凭れかけさせて、突っ伏して寝るには不向きだ。



なんとなしだ。
なんとなしに教室に残るコトがある。
勉強をしたり、本を読んだり、携帯をいじったり。
だけど毎回いつのまにか眠りに落ちているのだ。
重い頭を支える腕はじんじんと痺れるし、なによりだ。

死にそうになるのはいただけない。

もちろん夢の話である。
原因は様々だけれど、教室で眠る度に死にそうになる。死にかける。死んでしまったのかとさえ思ってしまう。
炎にまかれて。水中に沈んで。ビルの上から落っこちて。
ぱちり、と目が覚めた時には、息も絶え絶え。
必ずひとつ深呼吸をするのが癖になった。

今日も迫り来る壁に押し潰される。呼吸が苦しくて苦しくて堪らない。
嗚呼、しにそうしにそうしにたくない。

「起きんしゃい、苗字」

ぱっ、と目が開く。
大きく大きく深呼吸。
額にはじっとりと汗をかいていた。

どくどくと早鳴りをする胸を押さえながら、目の前の彼にありがとうとお礼をいった。
初めてこうして夢を見初めてから、初めて教室で眠ってしまってから、私を起こしてくれるのは仁王くんの仕事のようになっていた。
彼が私を起こそうとしてくれているときには、すでに私は死にかけている訳で。
遠い意味では命の恩人だ。
夢を見ている時にはうなされているんだと仁王くんは教えてくれた。
それを聞いた時には笑った。
たまたま教室に来たら、机に突っ伏した女がうなされているなんて。
シュールな光景極まりない。

「最終下校まで時間なかよ」
「今行くよ」

仁王くんは優しい人だ。
こうして私を起こしては一緒に教室を出てくれる。
のろのろと歩く私に、手先だけで早く来いと伝えるから、猫背なその姿を小走りで追う。
ちらりとこちらを見るその目を見て、クスクスと笑い声をたてると、なんだ、とでも言いたげな顔。
彼には毎回の「ありがとう」の意味もわからないだろう。
誰にもあの恐怖も苦しさも共有してもらうコトはできない。
だけど私は彼に救われる。
本物の死なんて知っている訳がない。苦しくなるのはごめんだ。

「仁王くんのおかげで私は生きていられるんだよ」

そういって彼を追い越せば、にゅっ、と横から影が伸びて仁王くんが隣に並んだ。
一瞬、外よりも明るい廊下を写した窓ガラスに、赤いなにかを首につけた自分の姿が写った気がした。



いっそ一思いに殺しておくれ
(彼女を殺したいほど愛しているよ)





















苦しいのは仁王が首を絞めてるから。

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