「「「「お誕生日おめでとう!」」」」
「あ、ありがとうございます…!」

部室のドアを開くと同時に鳴ったクラッカーと、賑やかな声。
ふわぁ、と胸の底から込み上げるような嬉しさに頬が緩んだ。
今日はミーティングだけ!と笑顔で迎えいれてくれた白石部長についていくと、机の上には食べ物や飲み物がいっぱい。
真ん中にはケーキが置かれていた。
早く食べたいと騒ぎはじめた金ちゃんは銀さんが止めてくれて。一氏先輩が明かりを消した部室で、ハッピーバースデーの曲を歌ってもらう。
こんなにちゃんと誰かに祝ってもらうのなんてはじめてで、頬は緩みっぱなしだ。
ふぅ、と蝋燭を吹き消して。付いた明かりの下で金ちゃんにもう食べていいよ、と声をかけた。



喜んで机に飛び付く金ちゃんを見ながら、少し離れたところにいる光のもとへ向かう。
相変わらずの仏頂面。
さっきの賑やかな声の中に埋もれてしまった彼の声を聞きにきたのだ。
この誕生日会のためか朝練があったため、光ときちんと向かい合うのはこれが今日はじめて。
目の前にたつと、猫よろしくごく自然を装って視線がずらされた。

「光」
「…」
「ねぇ、」
「…これ」
「え?」
「…オメデト」
「いいの…?」

ふいに差し出された包みを受けとる。
緑色のそれを開けてもいいかと許可をとり、さっそく中身を覗き見た。

「光、これ…」
「たまたま自分の好きそうなもん見つけただけやで」
「あ、うん、えっと」

なんだろうなんだろう、わくわくして覗いた先にあったものに思わず驚愕した。
指先に引っ掻けながら取り出したのはレザーストラップに小さな時計がついているもの。
派手ではない、だけど可愛らしいそれは確かに私の好みど真ん中だ。
だけど、問題はそこじゃない。
言葉を濁す私に光が怪訝そうな顔を向ける。

「…気に食わんかったか?」
「いやっ、そうじゃなくて…!」
「じゃあ、なんやねん」
「えーと、その、ですね…、光はいいのかなぁって」
「は?」

さらに口ごもる私を見て、プレゼントが気にくわなかったと思ったのか、手が伸びてきた。
いや、そうじゃないんだって!
取られてしまわないようにぎゅう、と握りこむ。
それと一緒にぎゅう、と目も瞑った。


「いやぁだあっ、光きゅんったら!なかなかやるやないの!」


後ろから聞こえたその声にびっくりして振り向く。
小春先輩がケーキを二切れ持ってきてくれたようだ。
にこにこではなく、にやにやとしている小春先輩を見て、プレゼントを見られたな、と感じとった。

「時計なんて、その気見せない癖にさすがはオトコノコ!ネ〜!」
「…はぁ?なんのコトです、金色先輩?」

首をかしげる光の態度を見て納得。
本当に私が好きそうなもの、というだけで選んできたというコトがわかった。
私だけこんなドキドキしてたなんて、恥ずかしい。少し熱くなった頬を押さえた。

「恋人に時計あげるっていうのはねぇ、相手の時間を自分にちょーだいって意味なのよぉ!」

きゃっ、と可愛くしなを作ってケーキを置くと、小春先輩はそのままみんながいる方へと戻っていった。
まるで嵐のような勢いだった。
あまりの慌ただしさに、ふぅ、と一息吐いて光に向き直る、

「ひ、光?」

が、なぜか向き直った先の光は頭を抱えていて顔が見えないほど俯いていた。
どうしたの、と軽く揺すれば、時計を持った方の手を捕まれる。

「やっぱ…、なし」
「え?」
「これ、プレゼントしたん、なし」

これ、とは、時計のコトだろうか。
髪の隙間から覗いた耳は真っ赤で、照れているコトがすぐにわかった。
あらかた、そんな執着するようなプレゼントを贈ったのが恥ずかしかったんだろう。
けど、

「やだ」
「は、」
「私はこれがいい」

手の中の時計をしっかり握り直した。
派手ではなくてどことなく可愛らしいそれ。
私の好みど真ん中。ぱっ、と顔をあげた光の頬はほんのり赤い。
手の中のいれた時計を、もう私の。と、しっかり握りしめる。

「せやかて、」
「私の時間、もらってよ」

光になら全部あげる。
緩んだ手から抜け出して、鞄に時計をぶら下げた。

「全部もらってくれるんでしょ?」
「…あほ」

再び頭を抱えた光を笑うと、ぺしりと頭を叩かれた。





針の音すらもらってあげる














恋人に贈るべからずなもの。時計。

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