HRが終わり、委員会の会議も終了。
ようやく帰れる、と一息吐いた時にそれは目に入った。教室には雅治一人。
窓の外はもう薄暗くて、待たせてしまったかなと焦りつつ扉に手をかけた。

ふと、雅治の腕が大きく振られたかと思うと、薄暗い窓の外へと何かが放り投げられた。
オレンジ色のなにか。
少し四角くて重そうだった。
そこまでその光景を見届けて、バッと自分の机に目を移す。ない…!
慌てて机に近寄ってみるも、机のフックにかけていたオレンジ色の紙袋はどこにも見当たらない。

「雅治!なにしたの?!」
「捨てた」
「捨てたって…!だってあれは…!」

今朝、雅治がくれたものなのに…!

そう。今日一日机の横にかかっていたオレンジ色の紙袋は、さっき外へと投げられた紙袋は、雅治がくれたものなのだ。
中身は知らない。家に帰ってから開けてと言われたから。
朝一番でもらったそれを机の横にかけておくのは気恥ずかしかった。
友達にも、クラスメイトにも冷やかされた。
だけど、嬉しくて嬉しくて、誰にも触れられないようにそっと今日一日守ってきたのに。

「なんで…!」
「…」

ぐっ、と雅治に近づいて問いただすもなにも答えは帰ってこない。もういい。
くるりと方向を変えると、手首を掴まれて後ろへ引かれる。

「どこ行くんじゃ」
「取りに行くの」
「何を」
「雅治がくれたプレゼント」
「ダメじゃ」
「なんで!」
「別の買っちゃるから、」

あれはダメ。
ずんと気持ちが沈んでいく。
なんでダメなんだ。
雅治がくれたものは全部全部嬉しいのに。
雅治が選んでくれたものなら、十分すぎるのに。
何を選んでくれたのかだって私はまだ見ていない。

「…泣かんで」

そんなの無理。耐えても耐えても、机の横にはあのオレンジ色はかかっていないんだ、それだけわかると涙が止まらない。
恥ずかしくなったのだろうか、女の子になにか言われたのだろうか、あぁもしかして、雅治に嫌われてしまったのだろうか。
なんの根拠もない妄想が頭の中にぽんぽんと浮かんでくる。
止まらない涙を手の甲で拭うけれど、全く意味がない。
片手を掴んだままの雅治が、あーとかうーとか唸り始めた。
鼻をすすりながら見上げると、困ったような顔。

「あー…、なんつーか…、うん」
「な、に…」
「あれは、ダメ。なんじゃ」
「どうして、」
「笑わん…?」

言い出しづらそうにそういうものだから、ゆっくりとうなずく。

「あれの中身、靴」
「…靴?」

家に帰ってから開けてくれと言われていたから中身は知らなかった。
どうやらオレンジ色の紙袋の中身は靴だという。
そういえば、買い物に付き合ってもらった時に靴屋にも入った。
でも、だからどうして?意味がわからず雅治を見上げる。

「…幸村に、な。教えられたんじゃ」

恋人に靴をプレゼントしちゃあいけないって。その靴を履いてどこか遠くにいってしまうって。
がりがりと頭を掻きながらそう口を動かす彼をじっと見つめる。

「だから、なんじゃ。その、」

「あれは、ダメ」

いろんな妄想は杞憂だったのか。
安心したらまた涙がこぼれてきた。

「だから、泣かんでって」
「馬鹿…」
「…」
「馬鹿雅治…」
「…ん、」

力の弱まった手から抜け出して、そのままその手と手を繋いだ。
鞄は肩にかけたままだったから、教室に戻ってくる必要はない。
雅治を引っ張っていく。

「どこ行くんじゃ」
「プレゼント拾いに行く」
「だから、あれは」
「いいの」

階段の踊り場で雅治と向き合う。

「私がどこか遠くに行っちゃわないように、雅治が、しっかり引き留めておいてよ」

新しい靴でどこかに行く気なんて私にはない。
だって、立ち止まって待っていれば雅治が来てくれる。
どこかで待っているかもしれない靴の行き先の人物には悪いが、私にとっては雅治の隣が一番なのだ。
一瞬きょとんとすると、また謎の声で唸る。

「逃がさないでね」
「…そんな気さらさらない」

無理に握った手を一度ほどかれて今度はしっかりと手をつなぐ。
こうやって離さないようにしっかり掴まえておいてね。



踵を鳴らして3回トントン



















恋人に贈るべからずなもの。靴

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