「朝だよ、起きて」
「ん、んー…」

まだ眠そうに目元を隠すきよくんの姿をみてこっそり笑う。
同棲するようになって、こんな姿を見るのは初めてではないし、むしろ毎日の日課になっている。
だけど、彼のこんな姿をみられるのは私だけだと思うと思わずこうして笑ってしまうのだ。
もう一度、起きて、と声だけかけて寝室をを出た。
今日の朝御飯の卵焼きはうまくできたと思っている。





「じゃあ行ってくるわ」
「うん」

さっきの眠そうな顔はどこへやら。
いつものスーツを着て、手には鞄。部屋の机の上の食器はすべて空っぽだ。
きよくんを玄関に送りながら、今日は天気がいいから洗濯物がよく乾きそうだなと思った。

「あ、」
「…どうかしたか?」
「ううん」

ふと、声が出た。
不思議そうにこちらを振り向く彼に首を横に振ってなんでもないと示す。

なんでもなくは、ないのだ。

昨日までの3連休。
それを思い出して、突然悲しくなってしまったのだ。
朝御飯の片付けも、洗濯も、買い物も、夕飯の準備も。
この3日間は彼がいた。
だけど今日からはまたひとりぼっちだ。
ぎゅっ、と心が掴まれてしまったみたいに痛い。
私が首を振ったコトでこちらに向けられた背中が、スーツが憎い。
そっとそっと手を伸ばしてスーツの裾を引っ張った。お前が悪いんだぞ、と。
それにつられて、彼の肩までその力が伝わったらしい。
慌てて皺を伸ばすような動作でごまかした。





「いってくる」
「…いってらっしゃい」

磨いた靴も、きよくん愛用の鞄もなんだか憎らしかった。
ぱたん、と閉じた扉を見つめる。
…静かだなぁ。
ひとりぼっちはこんなに静かだったのか。
空っぽになった玄関でぼんやりと扉を見つめる。
物にまで嫉妬するなんて、と自分自身を笑う。
だけど、やっぱり

「寂しいものは寂しいじゃん…」

また数日後にはやってくる2人でいられる時間ですら、待ち遠しいのだ。
きよくんを仕事につれていくスーツも、靴も鞄も、車だって嫌いだ!と心の中で悪態をついて、扉の鍵をかけようと手を伸ばした。
が、なぜだかそれは遠くに離れていく。
え、

「おい」
「なん、で…」

さっきいってきますと扉を出たはずの彼が目の前にいた。扉を開けてこちらを見ている。
伸ばしかけた手は行き場をなくしてそのまま硬直。
それは向こうから伸びてきた手に掴まれて、あっという間に体ごときよくんの腕の中だ。
かぁ、と全身の熱が上がる。

「し、仕事!仕事は!」
「忘れもんだよ」
「取りにいくから、ちょっと離し、っ!」

こんなんじゃ心臓がもたない!となんとか逃げ出そうとすると、額になにかが当てられた。
なにか、なんて野暮だろうか。
キスされた。
言葉も出せないままにゆっくりと顔をあげると、なぜだか口許を隠した彼が目に入った。
なんで照れてるの…?

「な、に…」
「お前が…」
「私…?」
「お前が、あんな寂しそうな顔するのが悪いんだからな…」

いってくる!の荒っぽい声と、ばたんと閉まる扉の音。
今度はちゃんと鍵をくるりと回して施錠。
そのまま玄関にへたりこんだ。
外からは小学生の元気な声が聞こえる。
車が走る音も聞こえた。

「ふふ、あははっ!」

さっきまで何が起こったのか整理が間に合っていなかった頭がようやく状況を理解したらしい。
あの顔も、あんなコトも、できるんだ。
そう思うと、自然に笑い声が出てしまう。
あんな彼の姿を見れるのは私の特権。


ドアスコープ(ちゃんと見えてます。)





















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