ぱしん、

高い音と、痛みはじめた頬。
それは、意識を失うような突然の痛みなんかじゃなくて、ちりちりと小さく刺すような痛み。
頬を押さえながら、ゆっくりゆっくり顔をあげた。
それなりに痛いのだ、

「どうしてそんな顔するの」
「…」

男の平手を食らうのは。
自分で叩いたというのに、この男は、財前は、何故だか苦しそうな顔をする。
叩かれたのは私なのに。痛いのは私なのに。

「いい加減、やめませんか」
「なにを?」

もう何度目になるだろうか。
財前とこうして二人きりになって。
平手を食らう。
もう、何度目になるだろうか。
その一度だって、財前は満足そうに笑わない。

「逃げるん、やめませんか」

財前は苦しそうにする。
毎回苦しそうにする。
いつからだろう、財前にはたかれるようになったのは。
いつからだろう、財前が苦しそうな表情をするようになったのは。
いつからだろう。



痛みはいつの間にか熱になった。
財前は目をそらさない。
だから私も財前から目をそらさない。
ゆっくりと、頬を覆った手に財前の手が重なった。

「先輩が好きです」

頬は熱い。
はたかれて熱を持ったのだ。

財前の手も熱い。
じわじわと挟まれるように熱せられていく。

「ごめんなさい」

吸い込んだ空気だけが冷たかった。
くっ、と寄せられた眉間の皺と、力の入った手。
頬に添えていたはずの手は、握りつぶされてしまうのではないかと思うくらいの力がかかっていた。

「私は、財前の思うような素敵な女性じゃないよ」

きっと、家庭的で優しくて、無愛想な財前すら笑顔にしてくれる、小柄で笑顔も可愛い女の子。そんな子が財前の隣にいるべきなんだよ。

肩を並べて歩く財前と女の子の姿が頭に浮かぶ。
ねぇ、と問いかければ、頭が小さく振られる。

「俺は…っ」

何度この会話をしただろうか。
何度財前の隣を歩く女の子の姿を想像しただろうか。
何度、

「あんたじゃなきゃ嫌や…っ」

この表情を見ただろうか。
キッ、とその目に睨まれる。

「嘘つき…、」

私は、嘘なんか吐いてない。
冷たくなった風に濡れた頬が乾かされる。


死にたいなら一人で死ね
(だけど、俺は絶対にあんたを許さない。)

















自己肯定感の低い先輩

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