「なぁ、」
「 」
「なぁ!」
「 」

あれ、数ヵ月前の出来事は夢だったのだろうか。
もしかして私の勘違いだったのだろうか。いや、そんなはずはない。
ただのオトモダチから彼女に昇格したはずだ。
そりゃあ、嫌いな相手とお付き合いなんてするほど私もお人好しじゃない。
付き合うか、なんてポロリと言われた言葉が嬉しくて泣いたのは、うん、間違いない。
それが、どうだ。

「財前ー」
「 」
「財前くんー」
「 」
「シカトか、こら」
「 」

全無視とはこれ如何に。
さっさと歩く財前に追い付こうとこっちは必死なのだ。
歩幅を合わせるだとかないのだろうか。
仮にも放課後デートだというのに。

部活続きであんまり会えなかったんだぞ、寂しかったんだぞ、コノヤロー。
ふつふつと沸く怒りを押さえ込みながら、財前に声をかけ続ける。

こっち向いてよ、
なぁってば、
おしゃべりしようって、
なぁなぁなぁ、

すれ違った人の、かわいそうなものを見る目が痛い。
なにこれ、私ただの恥ずかしい子みたいじゃん。
それもこれも財前が無視し続けるからだ。
うがーっと噛みついてやってもいいかな、と考えたが、なんとか押し込める。
だって噛みついたら財前怒るじゃん。

久しぶりのデートなのだ。

財前は怒ったら絶対に私なんかその場でぽいっだ。
やだやだ、財前が好きだ。
しゃべってもしゃべっても財前は返してはくれない。
それをもう一度理解したら、怒りなんかはどこかに消えて、代わりにどんどんどんどん寂しくなってきた。

「…」
「…なんやねん突然黙って」

少しぶりに財前の声を聞いた。
ぱっと顔をあげるけれど、その視線はずっと前を向いたまま。
上げた顔を下げて、斜め前を歩く財前の左手を見つめる。

「いつも通りやかましくしときゃえぇやろ」

ぴーちくぱーちく、やかましいのだけが自分の取り柄やろ。キャラ変とか似合わん真似せんでえぇわ。
財前の毒舌を聞くに従って、どんどん気持ちが弱っていく。

「…だって、」
「 」

だって、財前はなんも返してくれないじゃん。
うなずくだけだっていいんだ。
いつもみたいに鼻で笑って「あほか」の一言だっていいのだ。
嫌なコトをして嫌われたくなんかない。
だって、

「財前が好きなんやもん…」

好きなんだからしょうがないじゃないか。
きゅう、と拳を握って財前の言葉を待つ。
ふと、睨み付けるように見ていた左手が持ち上がる。
それを追うように視線をあげた。

「財前…?」
「うっさいわ、ぼけ」
「私まだうるさくしてへんよ」
「黙っとけ…」

全部ちゃんと聞いとるからあんま余計なコト言うなアホ。
真っ赤な財前の耳。
ちらりともこちらを向いてはくれない。
だけど、財前が、真っ赤になっているのはわかった。
きゅん、と胸が締め付けられる。
ちゃんと、聞いててくれてたんだ。
それがわかると、落ち込んでいた気持ちはどこかへ消えた。
早足で財前の隣に並ぶ。
相変わらず前しか見てないけれど、大丈夫。

「財前、」
「 」
「大好き!」

ちゃんと届いてる。




正直な嘘つき者





















財前光の話の聞き方

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