不安、なのだ。
「帰ろか」
「うん」
教室まで迎えにきてくれた忍足くんを待たせないようにまとめてあった荷物を抱えて教室を出た。
優しくて、大人で、なんでもできて。
穏やかな忍足くんの隣が私という事実を未だに信じきれずにいる。
いつから好きなの、どこが好きなの、どうして好きなの。
聞きたいコトはいっぱいあるが、どんな答えが出てくるのかわからなくて、聞けない。
怖いのだ、「なんとなく」と答えられてしまうのが。
接点すらまともになかったのだ。
私を知ってもらえれば好きになって、もらえるのだろうか。
そう思うと、伝えなくてもいいようなコトまでが口をついて出てきた。
いつもよりも、私はおしゃべりになる。
「それでね、今日は」
忍足くんの方を向いてしゃべるコトはできない。
いつも自分の足元を見ながらしゃべるのだ。
昨日磨いたのに、風が強かったからか砂がついている。
忍足くんの隣を歩きながら今日も口を開く。
1時間は体育でね、
バレーボールだったんだけど、
どうしてもうまくいかなくて、
5時間目は数学で先生が怖くて、
なんてことない、きっとつまらないコトばかり。
それにも忍足くんは、短く相槌を打ってくれる。
それが嬉しくてくすぐったくて、ローファーを見つめては口を開く。
ふと、忍足くんの表情が気になった。
声はいくらでも繕えると聞いたコトがある。
それじゃあ、もしかしたら私のつまらない話にも優しい忍足くんは仕方なく相槌を打ってくれているんじゃないだろうか。
そう思うと、全身の血が落ちていくような気がした。歩く足は止めない。
ローファーから少しずつ視線をあげていく。
見たら後悔、するのだろうか。
ゆっくりゆっくり視線をあげて、ちらりと忍足くんを見た。
切れ長な目がしっかりと前を見据えている。
「なんや?」
それがどうしたコトか。
すぐにその深い色をした瞳がこちらを見た。
思わず、ぎょっとして立ち止まる。
それが面白かったのか、忍足くんは喉の奥で低く笑う。
かぁ、と熱の上がっていく頬を両手で押さえた。
なんでなんで、私が忍足くんを見たのに気づいたのだろうか。
「なんでこっち見たんや、って顔しとる」
「 」
「なんも心配せんでえぇよ」
ふ、と優しく笑う忍足くんに頬を押さえていた手を取られた。
「俺は、どんなコトだって知りたいし、聞いてたい」
「名前のコトならな」
せやから不安な顔、せんでえぇよ。
怖がりさん
忍足侑士の話の聞き方
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