下校時はいつもひやひやものだ。

「でね〜、」
「前!前向いて、涼太くん!」

大きな体を丸めて、前から覗き込むように話しかけてくる涼太くんをなんとか止めようと必死だからだ。

目の前は、交通量の多い道路。
青信号になれば車は徐行運転なんて知らないみたいな勢いで走り抜ける。
もし、涼太くんがおしゃべりに夢中で赤信号に気づかなかったら…、なんて考えるだけでぞっとする。
彼のこの癖に気づいてから、私はなんとか涼太くんに前を見てもらおうと日々苦心しているのだ。
今日日、下手したら小学生だって「前を向いて歩きましょう」と言うはずだ。
高校生の彼が前方どころか、全方不注意なんて、と頭を抱えている。

「涼太くん、ちゃんと前見て歩いてよ」
「へ?」
「危ないよ」
「でも、こうしないと名前の顔見れないじゃないッスか」
「…見なくていいよ」

教室だって、お部屋だって、確かに涼太くんとお話する時は顔を合わせながらおしゃべりしている。
うんうん、と頷いてくれたり、笑ってくれたり、人の反応があるのはもちろん嬉しいコトだ。
だけど、状況ってものがあるじゃない。
にこにこ笑う涼太くんを見て、もうひとつ溜め息を吐いた。


なんとか毎回の難関である大通りを抜けて、住宅街に入る。
車の通りも少なくなり、一気に体の力が抜けるのがわかった。

「お疲れッスね」

誰のせいだと…。
口には出さないけれど、その代わりに大きくひとつ息をついた。

「涼太くんが前向いて歩いてくれれば、それでいいのに…」
「もー、心配しすぎッスよ」

それに、と言葉を続けながら一歩前に出た涼太くんを見る。
前からも後ろからも車や人は来ていない。
涼太くんでも届きそうにない頭上の街灯が影を作った。



その影は、涼太くんだけじゃなく、何故か私にも出来て。
一瞬暗闇になった視界のせいで足が止まった。
遠くの方から車の音がする。
変なところで立ち止まったからか、くん、と腕を引かれて慌てて道の端に寄る。
どくどくと鳴る心臓を押さえながら、またこちらをみている涼太くんを見上げる。

「こーいうのも、よくないッスか?」

不意打ちのキスに頬が熱い。




不意打ちに熱












黄瀬涼太のおしゃべりの仕方

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