どこが好きなの。
雅治と付き合っていて、よく周りの人から言われるコト。
笑っちゃうのは、前に雅治と付き合った女の子たちにそう聞かれるってコト。
今まで付き合ってた子の中で一番続いてるんだと聞かされた。
何回か聞かれた「どこが好きなの」の質問には毎回、内緒と答えてそれとなく逃げてまわった。
「それでね、明日は調理実習で」
テニス部の終わる時間はいつも遅くて、日も伸びてきたからまだ薄明るい道を雅治と歩く。
猫背で、制服のズボンのポケットに両手を突っ込んだ姿。
手を繋ぐなんて、数えられるくらいしかしない。
雅治はひどくマイペースだから、私はいつも斜め後ろを歩きながら喋り続けるのだ。
こちらを見る訳でもなく、頷きつつ聞いてくれる訳でもなく。
前だけを見ながらてくてくと歩く。
私に問いかけてきた女の子たちにとっては、きっとこれが「好かれてない」と判断する基準になったのだろう。
「こっちのコトなんて、全然気にしてくれないんだもの」
そういった女の子を思い出した。
彼女の新しい彼氏はとても優しくて、彼女が話し始めると、穏やかに頷いて話を聞いている。
ようは、聞き上手なのだ。
「作ったコトないけど、クッキーを作るんだ」
雅治は、聞き上手ではない。
穏やかに頷いたり、話を広げてくれたりはしない。
だけど、
「頑張って、雅治に食べてもらえるようなの作るね」
聞いてないなんてコトはないのだ。
気づきにくいだけで、ちゃんと私の話に耳を傾けてくれている。分かりにくいだけなのだ。
その証拠に、ほら、
斜め後ろにいる私を、目だけ動かして捉えたかと思うと、にゅっと手がのびてきて頭をぽんぽんと撫でる。
「楽しみにしちょるよ」
どこが好きなの、なんて聞かれた。
雅治の素敵なところを教えたくなくて、私は毎回「内緒」と言うのだ。
不器用者の精一杯
仁王雅治のおしゃべりの仕方
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