ぶっちゃけ女なんて掃いて捨てるほどいる。
残念ながら清いオツキアイなんて片手でも足りるくらいしか(結果的にはどろどろもするけど)してないもんで。

「(なんつーか、これは無防備すぎるッスよねぇ…)」

目の前で、机に突っ伏して静かな寝息を立てているこの子だって(今は片手に入る方の清いオツキアイなんてしてるけど)、きっとそのうち今までとおんなじになっちゃうんじゃないかなーなんて思ってる。
ふぅ、とひとつため息をつく。
やーだやだ。

いつか王子様がー、じゃないけど、いつか本当に好きな人がオレにもできたらいいとは思う。
オレって以外にロマンチスト。
目の前の彼女がもぞもぞと動いた。起きた?と思って覗き込むもただの寝返りらしい。なーんだ。
ふと、左手の薬指が目に入った。

「(指輪、ちゃんとしてるんスね)」

丁度この子の前に付き合ってた(っぽい)女の子にねだられた指輪。
安いけれど人気のブランドのものだったはず。
ペアリングでもないし、あげる前にフッちゃったもんだから次に付き合ったこの子にあげた。
いつだっけ、あー1ヶ月記念とかなんとか言った、はずだ。
こんなもんだろと、ろくにサイズも見ずに渡した指輪だからか、興味本意に引っ張るとその指からするりと抜けた。
合わないサイズの指輪は不恰好にしか見えない。

…そろそろ記念日だっけ。
ぱっと見た感じでサイズを確かめる。喜ぶかな。
きっと別れたら質屋行きだな。容易に想像できる光景でなんだか笑える。
新しい指輪はどこで買おうか。
手の中にある不恰好な指輪を窓から投げた。
からん、と音がする。
土にでも還っちゃえばよかったのにな。
忘れ物を取って体育館に戻った。








「(…いない)」

部活が終わり、制服に着替えて彼女がいた教室に向かうと、寝ていたはずの姿はどこにもなかった。
荷物は机の横に掛かったまま。
トイレでも行ったのかなー、なんてそのまま彼女の席に腰掛けた。
ふと、開いた窓から風が吹き込んでくる。
戸締まりしなきゃ、と窓に近寄ってみて、ぎょっとした。

「…名前っ!」
「ん、…あ、黄瀬くん」
「なにやってんスか…」
「別に、なにも?」

笑顔でそう答えるのはいいが、今の自分の格好を見てからやってほしい。
教室の窓から見えた姿そのまま。何かを探すみたいに四つん這いになっていたらしい。
膝と、一瞬だけ見えた両手は土のせいでどろどろだし、ローファーもすっかり汚れてしまっている。
顔にも少し土が擦れていた。

「部活お疲れさま。実はちょっと用事があって一緒に帰れなくなっちゃったんだ。先に帰ってて?」

本人はどろどろな自分の姿に気づいているのか、否か。
背中の後ろで組まれた両手で、何を探していたのだろうか。

「なにか、探し物?」
「えっ、う、うんそうなの。探し物」
「じゃあ、オレも手伝う」
「え、いやいいよ」
「明日朝練ないんスよ。早く見つけて帰ろ」

ブレザーを脱いで低いツツジの木に被せた。
Yシャツの袖を捲る。

「い、いいの!私一人で探すから!」
「よくないッス。もう暗くなってきてんだし」
「大丈夫だから!」
「だーめ。二人の方が早く見つかるっしょ。で、何落としたの?」

必死で食い下がる彼女を丸め込むように言いはなっていく。
言い訳がなくなってきたのか、押されるように黙り込む。
本心、適当に探してるフリをして買えるようなもんなら買ってあげるから勘弁してよ、ってね。
全力で部活をやった体はガタガタだ。できればすぐにでも家に帰って休みたい。
ただ、気になってしまったものは仕方ない。
さすがオレ、とだけフォローを入れてきっちりと袖を捲り終えた。

「名前?」

顔を覗き込むようにもう一度落としたものが何かを尋ねるも、首が横に振られる。

「何落としたか教えてくれないと探しようがないッス」
「…一人で探すから大丈夫」
「無理ッスよ。いっそ諦めたら?」
「い、いやだ!」

ぱっと顔が上がったと思ったら食いつくような勢い。
思わずその勢いに押されて一歩下がる。

「あ、ごめ、ん…」
「いや…」
「大切なもの、なの。どうしても見つけなくちゃいけないの」

大丈夫、一人でもすぐに見つかるよ。
無理してそう笑う頬に手を当てて捕らえる。
親指でついた土を払いながら、アンニュイ顔。

オレじゃあ、役に立たないッスか…?名前の大切なもんなら、オレだって見つけたい。

じっと見つめながら言えば、とうとう折れる。こっくりと頷いたのを見て手を離した。

「で、何を落としたんスか?」
「…指輪」
「え、」
「黄瀬くんに、もらった指輪」

が、どこにもなくて…。
最後の方は聞き取れないくらい小さな声だった。
指輪ってまさか。

「ごめんなさい…、なくさないようにしてたのに…」
「いや…、あんなんただの安物じゃないッスか」

さっきオレが窓から投げたアレだろうか。いや、それしかない。
あんなのただの安物だし、教えてないけど別の子にあげようとしてたもんだし、趣味も好みも聞いてないただのエゴみたいなもんじゃん。
気紛れであげた指輪をどろどろになってまで探す理由が見当たらない。
当たり前のようにどろどろになった左手にいつものシルバーはない。

「どんなものだって、黄瀬くんから貰ったんだもの。私にとったら」

無意識だろうか。
薬指をやんわりと右手がくるむ。

「一番大切なものなの」

それだけ言うと、ごめんねと漏らしてまた指輪を探すために土の上に膝をついた。
予想もしていなかったコトが起きて、一瞬動きが止まった。
慌てて別の場所を探すようなフリをする。

ばくばくばくばく、心臓がうるさい。

気に入らなかったかもしれない。
もしかしたら指輪を買った経緯だってなんとなくわかっていたのかもしれない。
いつの間にか彼女への不信感は消えていた。







ロマンチストの一目惚れ














書きたいものが書けないやーつ。

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