『本日、午後6時、地球は滅亡します』
それだけ言ったテレビはもう消した。
マンションの外はたくさんの人が行き来しているからか騒がしい。
窓もカーテンも締め切った部屋にはその喧騒は小さく聞こえるけれど。
まだ早い時間だからか、閉めたカーテンの隙間から小さく光が漏れて、電気をつけていなくても部屋の中の様子は分かる。
ベッドの上に向かい合って座る。
頬を包む大きな手の上に、自分の手を重ねた。
「嘘じゃ、ないんだね」
「せやんな」
たくさんの時間を一緒に過ごして。
喧嘩もして、幸せも感じて。
嫌なコトだってあったけれど、侑士はずっと一緒にいてくれた。
いっぱいの言葉は必要なくて、ただただ今は2人だけの時間をなにもせずに流している。
みんないなくなっちゃうんだと分かった時は動転して、どうしたらいいのかわからなくなったけれど、飛び込むようにドアを開けて入ってきた侑士を見て、自分のすべきコトを悟った。
大切な人に電話をして、ありがとうと伝えた。涙も少し出た。
出会ってくれてありがとう、優しくしてくれてありがとう。
拙い言葉で伝えた思い。たくさんの人に感謝した。
もう電話も切った。インターホンが鳴るコトはないし、誰も訪ねてはこない。
ずっとずっと隣にいてくれた人と向き合って、静かに時間が経つのを待つ。
「なぁ、名前」
「なぁに」
「プロポーズの時に俺が言った言葉覚えとる?」
「"おじいちゃんおばあちゃんになっても一緒にいよう"だっけ?」
思い出すとくすぐったくなって、ふふふ、と笑った。
意外にロマンチストな侑士は、夢をよく語る。
ずっと一緒にいたいと思ったけれど、おじいちゃんおばあちゃんなんて具体的に言われたらもっと離れられなくなる。
末長くよろしく、と言われるよりも現実的な夢だと思ったのを覚えている。
「あんま笑わんといて」
「だって突然だったんだもの」
「でも、本気」
「うん」
中学からの付き合いだ。
放課後に寄り道して、休みの日はデートして、試合の応援なんかも行ったりしたっけ。
「もう、おじいちゃんおばあちゃんにはなれんけどな」
「…うん」
午後5時55分。
あと5分。あと5分で、私たちはどれくらい成長できるのだろうか。
一気に年を取るなんてできないから、目に見えないくらい髪が伸びて、目に見えないくらい体が衰えて。きっとそれくらい。
おじいちゃんおばあちゃんには、決してなれない。
「せやから、あの言葉訂正させて」
もっとこれから先が長くて、たくさんの出来事に見舞われるんだと思ってた、子供も生まれたりもしたのかな。
それは想像の中だけでどんどん進んで、こうしている私は絶対に追いつけないものになってしまった。
言葉を切った侑士をしっかりと見据える。
「地球が終わるその瞬間まで、一緒にいてくれませんか?」
あと1分。
その言葉は実現性しかない。
目の前に迫っているらしい破壊神から逃げようもない。
今度は私が侑士の頬に手を伸ばした。
「もちろん」
そのまま距離を縮める。
その最後の一瞬まで、あなたと一緒。
ゼロ距離の幸せ
if地球滅亡したら
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