同じ中学だった。
同じ高校になった。
そして、
「好きです、付き合ってください」
中学時代に好きだった人から告白された。
この状況をうまく飲み込むコトができなくて、体が硬直して動かない。
下げられた金色の頭を見ながら、どうすべきかを必死で頭の中で考える。
頭を下げている男、黄瀬涼太が。
中学時代の私は心底好きだった。
バスケを始めた楽しそうな彼が、好きで好きで好きだった。
でも、全部過去形だ。
中3の時にこっそりと見に行ったバスケの試合に、少なからず私は失望した。
ゲームだ。試合の意味ではないゲームだったのだ。
そこに私の大好きだった黄瀬涼太はいなかった。
すぅ、と冷めていく気持ちを感じながらその場をあとにしたのを覚えている。
それでも笑う姿が好きだった。
でも、それもいつの間にか空気と同じみたいに見えなくなって、気づけばあれだけ必死で追っていた彼の姿を血眼で探すコトはなくなっていた。
それが、どういうコトだ。
今頭を下げているのは黄瀬涼太。
好きだって?付き合ってくださいだって?
返事もできずにぱくぱくと空気を食べていると、ぱっと金色の頭が上がって切れ長の目と目があってしまった。
だらん、と垂れていた手を不意に取られて心臓が持ち上がるくらいに驚く。
ばくばくばく、心臓がうるさい。
「好き、好きなんスよ」
真剣な顔。
嘘じゃ、ないらしい。
だけど、私は一度黄瀬から目を逸らしたんだ。その資格は、きっとない。
でも、の口ごもると、何を考えたのか腕を引かれてどこかに連れていかれる。
「ちょ、ちょっと…!」
「オレがバスケしてるとこ見てて欲しいッス」
そしたら絶対に惚れるから。
ずどん、と一気に気分が落ちた。
私が嫌いなあのバスケを見ろというのか。
酷だ、やっぱり黄瀬はどこまでも酷だ。
力で叶うはずもなく俯いたまま体育館の隅まで連れて行かれた。
ぴー、と笛の鳴る音。
ボールをつく音が響く。
見たく、ないのだ。
バスケが楽しくて仕方ない黄瀬が好きだった。
バスケを放り出した黄瀬が嫌いになった。
またあの時の失望が胸を曇らせる。
バッシュのスキール音や、ドリブルの音が怖かった。
ゆっくり、ゆっくりゆっくり顔を上げる。
息を飲んだ。
一瞬完全に時が止まって、呼吸も止まって。
ジグソーパズルの欠けていたピースが見つかって絵が完成したみたいな感覚。
唇を噛んだ。
それもだんだん歪んでいくのが分かる。
視界が歪んできて、前を見ていられなかった。
黄瀬が、楽しそうにバスケをしている。
私の好きだった黄瀬がそこにいた。
大声を出さないように必死で息を潜めて。スカートを握りしめて耐えた。
胸がどきどきする。
あの失望に怯えている訳ではない。
笛が鳴って、選手たちが一斉に監督のもとに集まっていった。
今日の部活が終わったらしい。
その場から動けずにぐずぐずと目元を擦っていると、解散をした黄瀬がすっ飛んできた。
途中から泣いているのに気づいていたらしい。
連れてきた時の力が強かっただの、強引すぎただの、どれもこれも的外れな想像だけど、黄瀬は必死だ。
ごめんごめんと謝られて、そうじゃないの、と一言言うとぴたりと静かになった。
「え…。じゃあ、なんで泣いて…」
「嬉しかった、の。ねぇ、黄瀬くん、」
「私、あなたが大好きです」
もう一度恋をしよう
書きたいものがかけないその2
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