※ホワイトデー







3年になると、週に1回は図書当番をするようになった。
先生もいるけれど、如何せん氷帝の図書館は大きいから一人では仕事が多すぎるんだそうだ。
委員の人の仕事だが、来ない人だっている。
正直、一人行けば放課後なんて十分なのだ。
今日は本当は2年生の子と一緒の当番のはずだったが、風邪を引いてしまったらしくメールが入っていた。
普段真面目な子だから、大丈夫だよゆっくり休んでねと返信をして携帯を閉じた。






「あ、苗字さん」

自分の借りていた本を持って図書館に向かう最中、忍足くんに声をかけられた。

忍足くんは図書館の常連で、同じ学年と言うコトもあって図書館のカウンター越しに仲良くなった。
恋愛小説が好きだというので、オススメや新作の案内をしたり、本の話をしたりする。
今日の当番なのかと聞かれたので、ひとつ頷いた。

「じゃあ後で返しに行くわ」

それだけ言うと、忍足くんは去っていった。
そうだ、あのテニス部に入っているんだっけ。前におしゃべりの中で聞いたような気がする。
持っていた本を見た。貸し出し期間は2週間。
この本を借りた日に忍足くんも本を借りていたような気がする。






昼休みは賑わう図書館も、放課後は実は人が少なくなる。部活だったり、塾だったり。
はたまた授業と授業の間の時間を潰すために図書館にいるだけの人だっている。
数人の生徒が出入りをするが、それも早くになくなって閉館時間の少し前には視界の中には人はいなかった。
膝の上に乗せて読んでいた本も丁度読み終わって、ひとつ伸びをする。

「読み終わったん?」

びくりと肩が上がった。
いつの間にかカウンターの向こうに忍足くん。
あまりにも集中しすぎていたらしい。
気が抜けた瞬間を見られてしまったコトが少し恥ずかしかった。
そんな様子に気づいたのか、くすくすと笑われてしまってさらに恥ずかしくなる。
忍足くんに延長か返却を尋ねる。
カウンターの上を滑るように出された本に手を乗せようとしてふと気づく。

「忍足くん、あの、これは?」

返却手続きをするはずの本の上にちょこんと小さなピンクの箱が乗っている。
横文字でお店の名前が記されていて、中身はどうやらお菓子のようだ。
間違えて乗せてしまったには大分真ん中にあるそれに、触れるコトができなくて忍足くんを見上げるしかなかった。

「苗字さんに」
「へ…?」
「お返ししに行くって、さっき言うたやろ?」

俺の気持ちや、受け取ってくれる?

木のサイコロを組み合わせたみたいな卓上カレンダーは、3月14日。
一ヶ月前に忍足くんにもチョコをあげていたコトを思い出した。
開けていいかと許可をとってから、その箱を開ける。

「こ、これって…!」
「うん、俺の気持ちや」

かぁ、と顔に熱が集まるのがわかった。
美味しそうだね、なんて無難な一言しか言えなくて、箱の中からピンクの飴玉をひとつ取って口に入れる。
優しい桜の香りがして、緊張が一瞬ほぐれて瞬間、

「!」
「甘いなぁ」

一気に忍足くんとの距離がゼロになった。
最終下校の放送が遠くに聞こえる。
返却の本を片付けなくちゃいけない、図書館も鍵をかけなくちゃ。
だけど、今は、

「俺と、付き合ってくれませんか?」

首を縦に振って私の気持ちを忍足くんに伝えるのが先決だ。





あげるよ、










大遅刻part3

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